第31話『願い事は誰頼み』

 朝風呂に入ってから少し経った午前7時過ぎに、2階の『夏海の間』にて朝食を食べる。

 バイキング形式ということもあってか、エリカさんは朝からたくさん食べていた。家にいるときよりもかなり多いので、普段の量は少ないのかと訊いてみると、普段の量でお腹は空かないけど、いくらでも食べることができるとのこと。

 食事中、昨日は海やプールでたくさん遊んだので、今日は観光中心に過ごしていくことに決めた。昨晩、部屋に戻ってからエリカさん達は3人で観光したいところや、食事をしたいお店などについて話したのだという。

 今日は3人についていく形にしようかな。どんな2日目になるか楽しみだ。



 朝食を食べ終わった後、1階の売店で、実家にいる家族や仕事でお世話になっている方達へのお土産を買った。あとは自分達が家で食べる分も。

 エリカさんやリサさんのテレポート魔法のおかげで、行き帰りの交通費が浮いたのでたくさん買える。それもあってか、特にお菓子を多く買ってしまったけれど、賞味期限が近いものだけじゃないから大丈夫だろう。

 そういえば、エリカさんやリサさんもお菓子中心にたくさん買っているな。自分で食べるつもりなのかな?



 午前10時。

 チェックアウトの手続きを行なった際に、近くを観光することを伝えると荷物をホテルで預かってくれるとのこと。なので、大きな荷物やお土産はホテルで預かってもらうことにした。


「昨日もそうだけど、荷物を預かってくれるなんて地球のホテルは親切だね」

「ホテルにもよりますが、今回泊まったホテルはとても親切だと思います。そういえば、これからどこに行くんですか? さっき、私達に任せてと言っていましたが」

「まずは夏海神社というところです。そこは恋愛や健康、お金などの御利益があるそうで。ホテルから歩いて15分くらいとのことです」

「へえ、そうなんだ。旅行に行ったら1カ所くらいは神社に行っておきたいね」

「エリカ様や私の魔法ですぐに行けますけど、せっかくの旅ですし、近いですから歩いていくことにしましょう」

「分かりました」


 テレポート魔法は便利だけれど、こうして歩いて観光地に行くのもいいよな。その道中も旅行を楽しみの一つだろう。


「ここら辺は昨日の夜も歩いたところだけど、明るくなってから歩くと印象が違うね」

「確かにそれは言えていますね。初めて来た場所というのも大きいかもしれません」

「2人の言う通りですね。ここを歩いていると、月を見たらエリカちゃんとリサちゃんがドキドキしちゃった昨日の夜のことを思い出すよ。あれには驚いたな」

「思い出させないでください、愛実様。結構恥ずかしかったのですから……」

「私はそこまででもなかったな。普段以上にドキドキしたって感じだったし」


 エリカさんは普段から俺に好意を示しているからな。昨日の夜のこともあまりきにしていないのかも。

 ホテルから歩いて15分ほど。

 俺達は夏海神社に到着した。夏海町の観光名所の1つだけあって、行き来する人達がちらほらと見えるな。

 50段くらいだろうか。階段の上がったところに赤く立派な鳥居が見える。


「これが神社なんだ。前に写真で見たとおり、赤いものがあるんだね」

「鳥居というのですよ、エリカ様。美しいですね」


 そう言って、リサさんは楽しげにダイマフォンを使って鳥居の写真を撮っている。温泉のときといい、エリカさんよりもリサさんの方が日本文化に強い興味を抱いているようだ。


「神社って旅行のときか、初詣くらいにしか行かないですよね、先輩」

「家の近くにないと行かないね。だから、神社に行くと旅行に来たんだなって思えるよ」

「ですね。エリカちゃん、リサちゃん。この神社は特に恋愛や健康、お金に関して御利益があるようだよ」

「あら、そうなのですか」

「恋愛に御利益があるならしっかりと拝まないと! さあ、さっそく拝みに行こう!」


 俺はリサさんに手を引かれる形で、神社の中に入り、俺達は鳥居をくぐった先にある拝殿へと向かう。

 観光地でもあるからか、賽銭箱の前には参拝者の列ができていた。4列で並んでいたので、俺達は横一列になって最後尾に並ぶ。ちなみに、愛実ちゃん、リサさん、エリカさん、俺という並び方だ。


「私達の番になったら拝むんだよね。そのときの作法があるんだっけ」

「そうです。ここには賽銭箱がありますから、そこにお金を入れて、二礼、二拍手、一礼をしてから手を合わせて拝みましょう。そのときに願い事を心の中で念じましょうね」

「口に出しちゃダメなんだね」

「ダメってわけじゃないと思いますが、拝んでいるときは心の中で言う方が無難なイメージがあります。話すとしたら拝んだ後がいいかと」

「分かった。しっかりと願い事を念じるね!」


 どういうことをお願いするのか、エリカさんは俺絡みだろうと想像できるな。向こうから話してこない限りは詮索をするのは止めておこう。

 エリカさんと話していたこともあってか、すぐに俺達の番がやってきた。

 この夏にエリカさんとリサさんに出会ったご縁に感謝してということで、俺は5円玉2枚を賽銭する。

 さっきエリカさんに教えたように二礼、二拍手、一礼をしてお願い事を念じる。宇宙が平和でありますように。エリカさんと俺が納得できるような答えを見つけることができますように。


「よろしくお願いします」


 軽く頭を下げて、賽銭箱の前から離れた。

 階段を上がって小高いところにいるからか、意外と広い景色を見ることができる。晴れていることもあって海が青くて綺麗だな。デジカメやスマートフォンで写真を撮る。


「お待たせ、宏斗さん」

「お待たせしました」

「たくさん拝んじゃいました、先輩」

「旅先の神社だからね。賽銭したなら、それでいいと思うよ」

「宏斗さんはどんなことを願ったの? 私は宏斗さんと結婚したいって願ったけれど」

「俺は七夕のときと同じく宇宙平和ですね」

「やっぱり」


 エリカさんは楽しげに笑った。俺も心の中でやっぱりと呟く。あと、結婚したいと願ったとここまでナチュラルに言える人はそうそういないだろう。


「私はエリカ様と自分が、地球で平和に過ごすことができるようお願いをしました。あとは、計画が滞りなく進めばいいなと」

「リサちゃんは真面目ないい子だね。あたしは……とにかく健康で、少しずつでも給料が増えていくといいなと」


 そう言って、頬を赤くした愛実ちゃんは俺の方をチラチラと見ている。愛実ちゃんの給料査定は上司である俺の評価が大きく影響するからかな。今の案件はみんなのおかげでほぼ予定通りに進んでいるから、いい評価にはしようと思っている。

 ただ、今後何が起こるかは分からないので、今のところは神のみぞ知る……というところだろうか。


「それはとてもいい願いですね。宏斗様、彼女の想いを叶えていいのでは?」

「愛実ちゃんはいい子だもんね!」

「……この調子で行けば、きっといい評価になるんじゃないかなぁ。あっ、今のは独り言だから」

「ふふっ、そうですか。明日からも頑張りますね!」


 愛実ちゃん、いい笑顔を浮かべているな。期待しているよ。

 そういえば、明日から仕事なのか。そうだ、明日からはまた仕事が始まるのか。今週は4日だけなので、多少は気持ちが楽だけれど。


「先輩、あっちに御守やおみくじを売っているところがありますよ」

「そうなんだ。せっかくだから、おみくじをやってみようかな」


 3人が御守を見ている中で、俺は先におみくじをやることに。


「小吉か」


 最低限の運はあるってことなのかな。それぞれどんなことが書いてあるのか見てみよう。まずは何ともいっても健康から。


『よし。ただし、暴飲暴食は控えよ』


 とても妥当なことを書いているな。20代後半になったので、食生活やお酒には気をつけないといけないか。

 社会人だし、次に気になるのは商いかな。


『無理は禁物。そうすれば利益あり』


 これまた妥当なことを書いてらっしゃる。自分だけじゃなくて、愛実ちゃんなどチームメンバーに無理をさせないように気を付けなければ。それを管理したり、調整したりするのが俺の仕事なので、その職務をしっかりせよってことだろう。

 次は……エリカさんのこともあるし恋愛かな。


『よく考えよ。そうすればよし』


 またまた妥当なことを。おみくじだからそれは当たり前か。エリカさんからのプロポーズについてしっかり考えて答えを出しなさいってことか。

 そうだ、今は旅行中なんだから旅行についても見ておくか。


『慌てるな。目的地に行ける』


 何だかかっこいいことを書いてあるな。確かに、慌てたら行けるところにも行けなくなるか。

 何かあったときに思い出すためにも、スマートフォンでおみくじの写真を撮る。


「宏斗さん、3人でお金を出して健康の御守を買ってきたよ」


 そう言われると、エリカさんから御守が入った紙袋を渡された。


「ありがとうございます。嬉しいです」

「健康だからこそ、お仕事も旅行もできますからね」

「あとは昨日のフルーツ牛乳のお礼でもあります、先輩」

「3本のフルーツ牛乳のお礼が御守になるなんて。凄くグレードアップした気がするな。ありがとうございます。これから大切に身につけておきますね」


 普段は仕事鞄に入れておけば御利益がありそうかな。俺にとってはこれが一番のお土産かもしれない。嬉しいな。


「3人もおみくじどうですか。100円ですし、いいことが書いてありますよ」

「そうなんだ! 2人とも、行ってみようか」

「そうですね」

「いい運勢だといいなぁ」


 3人がおみくじを買っている間に、さっきプレゼントされた御守を見てみよう。

 紙袋から取り出すと、青い御守に『健康御守』と刺繍されている。誰かからプレゼントされると、より効果があるように思えるな。

 その後、3人はおみくじを開くと、エリカさんは大吉、愛実ちゃんは中吉、リサさんが末吉という結果だった。みんな違っていたけれど、凶ではなかったので良かったと満足していたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る