第30話『目覚めたらそこは。』
ホテルに戻り、俺はエリカさん達と別れて707号室に戻った。
部屋に戻るなり、俺はベッドの上で仰向けの状態になる。
「あぁ、ふかふかで気持ちいい……」
夕食でお酒を呑んで、ホテルの周りを歩いたからか眠気が襲ってきた。あと、海やプールでたくさん遊んだか。
そういえば、ここにいるよりもエリカさん達の部屋にいる時間の方が長いかも。久しぶりにトランプやったけれど楽しかったな。個人的にトランプをやるなら4、5人くらいが一番いいと思っている。
702号室ではエリカさん達が楽しく過ごしているのかな。明日、朝食を食べるときにでも話を聞いてみるか。
「そろそろ寝よう」
浴室で軽くシャワーを浴びる。外が涼しかったからか、シャワーのお湯の温かさが気持ち良く感じられた。さっぱりとしたけど、依然として眠気が居座る。
浴室から出た後、歯を磨いて、俺はベッドの中に入る。テレポート魔法でこの部屋に来たエリカさんがドッキリで隠れているかと思ったけど、そんなことはなかった。
こうして横になると、シングルのベッドにしては結構広いな。それとも、今月に入ってからエリカさんやリサさんと何度か寝たこともあって狭さに慣れたのか。
明日は朝風呂に入りたいから、スマートフォンの目覚ましを午前6時にセットしておく。
「……おやすみなさい」
お酒とふかふかのベッドのおかげで、今日はぐっすりと眠ることができそうだ。
今日はいつもと違う1日を過ごすことができた。楽しかったな。明日も夏海町での旅を楽しむことができればいいな。
目を瞑ってから程なくして、俺はふんわりとした感覚に包まれたのであった。
7月15日、月曜日。
ゆっくりと目を覚ますと……ここはどこだっけ? 薄暗い中で見える天井は、全然見たことのないものだけれど。
「……そうだ、旅行に来ているんだった」
旅行に行くといつもこうなるんだ。目を覚ましてもどこなのか分からなくて、本当はまだ夢を見ているんじゃないかと。
でも、俺の泊まっている707号室の天井ってこんな感じだったっけ。ベッドも昨日眠ったときよりも硬くなっている気がするし。
「宏斗さん……」
左側からエリカさんの声が聞こえるし。色々なところから温もりも感じるし!
左右を見てみると、エリカさんが俺の左腕を抱き、愛実ちゃんが右腕を抱いて気持ち良さそうに眠っている。
リサさんはどこに眠っているのかと思い、少し体を起こして周りを見渡すとリサさんは俺のすぐ後ろ側に、俺の方を向いて眠っていた。
あと、ここは俺の泊まっている707号室ではなく、エリカさん達が泊まっている702号室だ。俺が眠っている間に、エリカさんかリサさんのどちらかがテレパシー魔法を使って俺をここに連れてきたんだな。
「まったく……」
俺のことを驚かせたかったのか。それとも、俺と一緒に眠りたかったのか。どっちもっていうのが正解かもな。……色々と驚いた。
「せんぱい……」
「宏斗さま……」
寄り添って眠るリサさんはまだしも、まさか愛実ちゃんが俺の腕を抱いて眠っているとは思わなかった。愛実ちゃんも昨日の夜はお酒を呑んでいたし、その影響があるのかもしれない。
エリカさんもリサさんも愛実ちゃんも、夢に俺が出てきているのか。
それにしても、女性3人に囲まれて眠っていると分かったからか、温もりを強く感じ、3人の甘い匂いが香ってきた。さすがに今の状況にはドキドキしてしまう。
エリカさんはもちろんのこと、愛実ちゃんからも柔らかい感触を感じるな。彼女の水着姿を思い返してみると……それなりに大きかったな。
「……何てことを考えているんだ」
愛実ちゃんとは上司と部下という関係なのに。ただ、初めてプライベートの時間をここまで長く一緒に過ごしているからか、可愛くて魅力的な女性に思えるのだ。エリカさんとリサさんが一緒にいることもあり、面倒見のいい一面も知ることもできた。
抱きしめる2人から抜け出せたとしても、寝ている間にエリカさんかリサさんに連れて来られたから、707号室にカードキーは持っていないだろう。それなら、このまま起きるのを待った方がいいのかな。
「うんっ……」
エリカさんは脚を絡ませてくる。その際に浴衣がはだけて、しっぽが俺の体の上に。寝ている間は猫のように、先端だけ穏やかに動くので安心できる。
俺と密着していることもあってか、エリカさんのしっぽは愛実ちゃんの手に触れる。
「宏斗先輩、手を撫でてきてどうしたんですかぁ」
愛実ちゃんはそんな寝言を言うと、エリカさんのしっぽをぎゅっと掴んだ。すると、
「はにゃあっ! もう、宏斗さんのえっち!」
「うっ!」
エリカさんに胸の辺りを思い切り叩かれてしまった。
「凄く痛い……」
さすがはパワーのあるダイマ星人。一発が重い。ううっ、叩かれたところがジンジンと痛むよ。この後、長く温泉に浸からないといけないな。
「うん……あっ、宏斗様。おはようございます」
「……お、おはようございます」
胸の辺りを叩かれたこともあってか、声を出すときも痛いな。
「宏斗様の大きな声が聞こえたのですが。あと、心なしか普段よりも顔色が悪いような」
「……実は、寝ぼけた愛実ちゃんにしっぽを掴まれたエリカさんが、俺の胸を思い切り叩いてきたんですよ。それも寝ぼけで」
「そうだったのですか。申し訳ございません。とりあえず、2人のことを宏斗様から離しましょうか」
すると、リサさんは俺からエリカさんとリサさんのことを離してくれる。2人のことを起こさずに手早くやるとは、さすがはメイドさんだ。
俺が2人から離れた後、リサさんはエリカさんと愛実ちゃんを抱きしめさせた。
「これで大丈夫でしょうね」
「ありがとうございます」
「宏斗様。エリカ様に叩かれたところを見せていただけますか?」
「はい」
俺は浴衣をめくってリサさんに胸部を見せる。叩かれてからあまり時間が経っていないからか、叩かれた箇所が赤いな。
「あら、赤くハッキリと痕が残っていますね」
すると、リサさんは赤くなっている部分を右手で擦ってくる。
「もしかして、治癒魔法とかで治してくれているんですか?」
「その魔法はあるのですが、難しくて私が使うことはできないのです。ただ……こうしていると痛みがなくなると聞いたことがありますから」
「そうですか」
地球でいう「痛いの痛いの飛んでけ」っていうやつかな。昔、ケガをしたときに母親や妹達が同じようなことをしてくれたな。
俺はリサさんの頭をゆっくりと撫でる。
「ど、どうして宏斗様が私の頭を……」
「リサさんのおかげで少し痛みが飛んだような気がしましたので、そのお礼です。ありがとうございます」
「……いえいえ」
リサさんは頬を赤くしながらも嬉しそうに笑った。耳がピクピクしていて可愛らしい。
「ところで、昨日寝たときは707号室にいたのですが。ここに移動させたのはエリカさんかリサさんですよね」
「その通りです。あれから夜遅くまで3人でお話をしまして。それで、寝ようとしたときにエリカ様が宏斗様をここに連れてきたら面白いんじゃないかと提案されまして。目覚めたときにここにいたら宏斗様が驚くのではないかと。エリカ様と私が一緒に寝たことがあると話したら、愛実様も一度体験してみたいという話になりまして」
「そうだったんですか」
愛実ちゃんがそんなことを言ったなんて。意外だな。お酒が入っていたからかな。
あと、目覚めたときにここにいたことは驚いたけど、それよりもエリカさんに思い切り叩かれたことの方がよっぽど驚いたよ。
部屋の時計を見てみると、今は5時過ぎか。結構寝たのか。
「リサさん。俺は朝風呂に入ろうと思っているんですけど、リサさん達は入るつもりですか?」
「はい。夜中にお風呂の入れ替わりが行なわれますので。早めに起きて一緒に入りに行こうと、昨日、大浴場に行ったときに話しました」
「そうですか。じゃあ、財布とダイマフォンとカードキーを取りに行きたいので、707号室に連れて行ってもらってもいいですか?」
「分かりました。まだ早い時間ですし、エリカ様と愛実様が起きるまではお茶かコーヒーでも飲みながらゆっくりしましょうか」
「いいですね。そうしましょう」
リサさんのテレポート魔法によって、一旦、707号室へ財布とカードキー、ダイマフォンを取りに戻った。
リサさんはコーヒーも大丈夫ということで、702号室に戻ると俺はコーヒーメーカーで2人分のコーヒーを作る。
「リサさん。コーヒーをどうぞ」
「ありがとうございます。では、いただきますね」
俺とリサさんは向かい合うようにして座椅子に座り、朝のコーヒーを飲むことに。
「美味しいです!」
「美味しいですよね。月曜日の朝に旅先の客室で美味しいコーヒーを飲めるなんて、本当に幸せですよ」
「ふふっ、大げさですね。でも、その幸せなお時間を過ごす相手が私で良かったんですか?」
「もちろんです。一人で飲むのもいいですけど、こうして誰かと美味しいと言い合えるのも楽しいですから」
「……そうですか」
すると、リサさんはとても嬉しそうな笑みを浮かべながら、コーヒーをもう一口飲む。
それにしても、エリカさんと愛実ちゃんは気持ち良さそうに眠っているな。このまま起こさない方がいいと思ってしまうほどだ。
「あれから、俺はシャワーを浴びてすぐに眠ってしまって」
「そうだったのですか」
「夜遅くまで話していたとのことでしたけど、どんなことを話したんですか?」
「テレビを観ながら、色々とお話しましたよ。お互いの家族のことや、宏斗様のこと。あと、アイドルグループのバラエティー番組をやっていましたので、お互いの星の芸能人のことも話しましたね」
「そうでしたか。旅行の夜を満喫したんですね」
「ええ。寝る前に話した話題が宏斗様のことで。話の流れで宏斗様をこの702号室に連れてきて驚かせようって話になったんです」
「……な、なるほど」
3人で俺のことをどう言っていたのか気になるけれど。
「ふああっ、よく寝た。……あっ、宏斗先輩にリサちゃん、おはようございます」
愛実ちゃんはゆっくりと体を起こして、目を擦りながらこっちを見ている。
「おはよう、愛実ちゃん」
「おはようございます、愛実様」
「……宏斗先輩、目を覚ましたときに驚きましたか?」
「……ちょっと驚いたかな。この和室にいることもそうだし、エリカさんだけじゃなくて愛実ちゃんやリサさんが寄り添って寝ていたことも驚いたよ。それに、愛実ちゃんは俺の腕を抱きしめていたからさ」
俺がそう言うとリサさんと愛実ちゃんは頬を赤くする。特に愛実ちゃんは今までの中で一番と言っていいほど。
「……あ、あたしだけが宏斗先輩と眠ったことがなかったですから。リサちゃんやエリカちゃんのご厚意で、宏斗先輩の片腕をお借りしました」
「そうだったんだね」
俺の腕の使用権ってエリカさんとリサさんが握っていたのか。知らなかったな。
この後、愛実ちゃんも一緒にコーヒーを飲みながらエリカさんが起きるのを待つことに。
しかし、昨日の夕ご飯にお酒を呑んだからか、目安としていた午前6時までにエリカさんは起きる気配がなかった。なので、リサさんと愛実ちゃんがくすぐってエリカさんのことを起こし、4人で朝風呂に行くことにした。
昨日とは入れ替わりなので、今回は檜風呂。檜の香りが心地いい。
起きたときにエリカさんに叩かれたこともあってか、温泉がとても体に効いている気がしたのであった。
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