第8話『猫カフェ』
昨日、夕食を作るときにラーメンを食べようと約束したので、お昼ご飯は俺が醤油ラーメンを作った。エリカさんはとても満足そうにしていて、特に鶏ガラ出汁のスープが気に入ったとのこと。
昼食を食べた後、俺はエリカさんと一緒に猫カフェに向けて出発する。梅雨なのに、今日はよく晴れていて蒸し暑いな。
「結構暑いですね。エリカさんはこの暑さはどうですか?」
「ちょっと暑いくらいだね。湿気がなければ爽やかで気持ちいいんだけれど」
どうやら、暑さの耐性は地球人よりもあるようだ。だからこそ、昨日はあの黒いゴシックドレスを着ていたんだと思う。
「ただ、暑い中でも宏斗さんと一緒に歩くことができて嬉しいよ」
えへへっ、とエリカさんは嬉しそうに俺と腕を絡ませ、寄り添ってくる。蒸し暑いけれど、腕から伝わる温もりは嫌じゃないな。
「ねえ、宏斗さん。今って……デートってことでいいのかな?」
エリカさんはチラチラと俺のことを見てくる。猫カフェに行って、その帰りに買い物をするだけだけれど、
「デートでいいと思います。こうして、一緒に外に出てエリカさんとの時間を楽しもうとしているんですから」
「そうだよね! デートだよね! じゃあ、そんな私達って恋人同士に見えているのかな」
恋人同士に見えるかどうかねぇ。
こうして寄り添って歩いているから、周りの人から付き合っていると思われそうだな。
けれど、エリカさんは耳としっぽが生えている。周りの人はダイマ星人の事情なんて知らないから、俺の趣味で猫耳カチューシャとしっぽ付きベルトを付けさせていると思われそうだ。現に変な表情でこちらを見てくる人もいる。
「まあ……親密な関係には思われていそうですね」
「……そうだといいな」
さっき以上にエリカさんは俺に寄り添ってくる。せっかくこうして一緒に外にいるんだし、エリカさんとの初デートを楽しもう。
エリカさんと色々と話していたら、目的地の猫カフェが見えてきた。
「あそこに猫カフェがあります」
「そうなんだ! 昨日もここら辺を歩いたけれど、宏斗さんを探していたからか全然気付かなかったなぁ」
俺と出会ったときのエリカさん、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていたからな。
俺とエリカさんは猫カフェに到着する。エリカさんの姿を見て店員さんにどんな表情をされるか心配だったけれど、よほどの猫好きだと思われたのか耳としっぽが可愛らしいと好評だった。そのことにエリカさんも嬉しそうにしていた。
1時間コースの料金を払って、俺達は店内に入る。さすがに猫カフェだけあって猫がたくさんいるな。お客さんやスタッフよりも多いんじゃないだろうか。
「うわあっ、猫ちゃんがたくさんいる! 写真で見るのもいいけれど、実際に見るとたまらないなぁ」
エリカさん、目を輝かせているな。しっぽを激しく振っているし。
「分かります、その気持ち。実家の猫が恋しくなりました。そこのソファーが空いていますから、一緒に座りましょうか」
「うん、そうだね」
俺とエリカさんは近くのソファーに隣り合って座る。
店内を見てみると、大学生くらいの女性達のグループや、若いご夫婦や年配の女性など、女性中心の来客者だ。また、エリカさんの姿を見て可愛いと言ってくる人も。
「まさか、地球の方が私のこの耳やしっぽを可愛いと言ってくれるなんて。意外でした」
「ここに来る人は猫好きの方も多いですからね。あと、コスプレで猫耳のカチューシャを頭に付ける人もいますし」
「なるほどね。……きゃっ、猫ちゃんが膝の上に乗ってきた。かわいい! にゃーにゃー」
エリカさんの膝の上にアメリカンショートヘアの猫が乗ってくる。それもあってか、早くもエリカさんは猫にメロメロのようで、柔らかな笑みを浮かべている。
そんな彼女のことを見ていたら、俺の膝の上に黒白のハチ割れ猫が乗ってきた。俺の膝が落ち着くのか、さっそく箱座りをしている。
「宏斗さんのところに来た猫も可愛いね」
「ですね。黒白のハチ割れ猫は好みです。猫にもよりますけど、まずは頭を触ってみるといいですよ。もちろん、猫は生き物ですから優しく触ってください」
「分かった」
エリカさんはアメリカンショートヘアの猫の頭を優しく撫でる。それが気持ち良かったのか、猫はエリカさんの上でゴロゴロとし始める。
「にゃぉん」
「すっごく可愛いよ、宏斗さん! 地球にはこんな可愛い生き物がいるんだね! にゃーにゃー……えへへっ」
「気に入っていただけたようで良かったです。本当に猫可愛いな」
ハチ割れ猫の頭を触りながら、スマートフォンで写真を撮る。俺の方に来る猫だけではなく、エリカさんのところに来る猫も。そんな中で、猫を触っていて幸せそうにしているエリカさんのことを撮ることができた。
「お前も可愛いな」
「にゃー」
ハチ割れ猫の顔を撫でていると、猫は俺の指を甘噛みしてくる。実家にハチ割れ猫がいるからか、実家でのことを思い出すよ。
俺の足元には大きな黒猫がやってきて、脚に体をすりすりさせてきている。
「にゃー」
「にゃーにゃー」
うん? たくさんの猫の鳴き声が聞こえてくる。何かあったのかと思って周りを見てみると、
「みんな可愛いねぇ」
エリカさんの周りにたくさん猫が集まってきていた。猫のような耳としっぽが生えているから仲間だと思っているのだろうか。あとは、地球人とは違って、ダイマ星人の匂いは猫好みとか。
当のエリカさんは猫に囲まれてとても幸せそうだ。一応、写真に撮っておくか。
「ここに住むのもアリかなって思えてきた」
「本当に猫が気に入ったんですね」
「うん! 地球人とは違って何か惹かれるものでもあるのかな? 私のしっぽに飛びつく猫もいるし」
確かに、エリカさんのしっぽにはマンチカンが飛びついている。ただ、マンチカンは手足が短く、エリカさんのしっぽに手が届いていない。
「しっぽの毛がフサフサで縦横無尽に動いているので、それに猫が反応しているのかもしれませんね」
「いい遊び道具になっているのかもね。ふふっ、可愛いな。……おっ、君は私の胸に何度も触ってくるねぇ。登りたいのかな?」
「にゃお~ん」
エリカさんはスコティッシュフォールドを両手で持ち上げる。その猫は子供なのかそこまで体が大きくないな。
「特別に君を胸の上に乗せてあげよう」
そう言うと、エリカさんは持ち上げたスコティッシュフォールドを自分の胸の上に置いた。エリカさんの胸が結構大きいからか、猫を難なく乗せることができている。そんな猫を見るエリカさんは優しい笑みを浮かべていた。
心なしか、スコティッシュフォールドはさっきよりもいい表情をしているように思える。
「あらあら、宏斗さん。私の胸を集中して見ているなんて。ふふっ、宏斗さんも男性ですこと」
「胸の上に猫を乗せるところを見せられたら、自然と胸の方を見てしまいますよ」
「正直でよろしい。そんな宏斗さんなら、私の胸に顔を埋めてもいいんだよ?」
「……やりませんよ。あと、そういうことは、家で2人きりのときに言ってください」
「ふふっ、ごめんなさい。さあ、私の胸から降りましょうね」
「にゃあ」
スコティッシュフォールドはエリカさんの胸から離れるとき、元気のない泣き声を上げた。どうやら、エリカさんの胸が気に入っていたようだ。
その後も、エリカさんと一緒に猫との戯れを楽しむ。猫は癒しをもたらしてくれる生き物であると分かってくれたら何よりだ。
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