第2話『地球に来た理由』
ダイマ王星地球支部計画。
もちろん、それを聞くのはこれが初めてだ。おそらく、このことを知る地球人は俺しかいないだろう。
「地球支部ですか。遥か遠くにあるダイマ王星の」
「はい。地球はダイマ王星と自然環境がとても似ています。そして、多くの国があり、日本を含めそれぞれの国には素晴らしい文化がありますから。大きな戦争も起こっていませんし」
「現在も関係が良くない国がありますけど、世界規模の戦争は70年以上前に終わった第2次世界大戦が最後です。あと、生活していく上で自然環境はとても重要だと思います。ただ、どうして宇宙船で10日以上もかかる地球に、ダイマ王星の支部を置こうと思ったのですか?」
「……遥か昔、ダイマ王星に他の惑星の方から侵略されかけました。壊滅的なダメージは受けましたが、ダイマ星人の必死の抵抗により侵略されずに済みました。ただ、復興するまではとても大変だったそうです。このことを機に、他の惑星の支部を置くことを考えたきっかけになったと聞いています」
「なるほど……」
ダイマ王星自体に何かあっても、ダイマ王星の機能を維持するための場所や、ダイマ星人の避難場所を他の惑星に作ろうって考えたってことか。あとは、他の惑星の文化や技術を取り入れて、ダイマ王星をより繁栄させようという考えもあるのかな。
「私の先祖は宇宙開発に力を入れるように指示しました。宇宙船の製作を行い、他の惑星の調査を始めました。ダイマ星人が移住しても大丈夫そうな自然環境を基準に選定し、選ばれた惑星の中の一つが地球でした」
「なるほど。実は数百年ほど前、地球の予言者が、1999年の7の月に恐怖の大王が地球に降りてくると予測したんです。そう予言したきっかけは……」
「当時のダイマ星人の姿を見ていたのかもしれませんね。時期までの特定ができた理由は私に分かりませんが。ただ、実際に当てたので凄いですね。ただ、恐怖の大王と言われるのは解せませんね。私は王女ですし。あと、恐くもありません」
エリカさんはご機嫌斜めな様子。確かに、今の彼女は恐くないな。むしろ、こういう姿も可愛らしい。
あの予言者がもしダイマ星人の姿を見ていたら、地球人にはない耳やしっぽを持っているから恐怖に感じたのかも。それか、地球の調査にやってきたダイマ星人が何かをしてしまったのか。ただ、いずれはやってくると予想するならまだしも、1999年の7の月にやってくると予想し、それを当てたのは凄いな。
「話を戻しましょう。我々ダイマ星人は、長い間、他の惑星の調査をしてきました。既に支部を置いた惑星もあります。地球もとても魅力的な惑星で、支部計画を具体的に進めようとしました。しかし、その頃は世界規模の戦争が2度起きており、その後も緊張関係が続いている状況でした」
「確かに、20世紀には2度の世界大戦がありました。2度目の世界大戦の後も、冷戦という時期がありましたからね」
「ええ。それで、地球が落ち着いた状況になったので、ダイマ王星地球支部計画を実行に移そうと考えました。そのための第一歩として、第3王女である私に地球へ赴き、地球に住む方と結婚することを命ぜられたんです」
「そういうことだったんですか……」
「もちろん、宏斗さんと結婚したい一番の理由は好きになったからですよ!」
きっと、その言葉に偽りはないだろう。
ダイマ王国は、惑星規模の政略結婚をさせようと考えているのか。地球との関係を結ぶきっかけとしては、王族の女性が地球人と結婚するのが穏便か。結婚を機に、王女のエリカさんが地球に住むことになったら、何かあったときのためにダイマ王星の支部を作りたいと言うこともできるし。
おそらく、これまでもそういうやり方をして、他の惑星に支部を置くことに成功したのだと思う。
「エリカさん。ご存知だとは思いますが、地球には多くの国があって、王族や皇族の方もいます。好きであることは嬉しいですが、一般人である俺でいいんですか?」
「もちろんです。その好きな人が、真面目で信頼できそうな人であればなお良いと母が言っていました。もし、そんな人がなかなか見つからなかったら、一国の王子や王女と結婚すればいいと」
「……なるほど」
随分と寛容な女王様だな。犯罪者とかでなければ、地球で好きな人が見つかれば文句なしってことなのかな。
あと、王子や王女と言ったということは、ダイマ王国では性別に関係なく結婚できるのかな。
「ところで、仮に地球がダイマ王星の支部になったとして、地球に住む人達にはどんなメリットがあるのでしょう? もしないのでれば、地球人からしたら、ダイマ星人のやることは侵略と変わらないような気がしますが」
「実際には地球の需要に合わせた内容で条約を結ぶつもりです。考えているのは、ダイマ王星の科学技術や製品、食料の輸出。もちろん各分野の人員を派遣し、地球の技術や文化の発展に協力するつもりです。あとは、地球でも使えるエネルギー資源を提供しようかなと」
「それは……メリットがあるように思えますね。もちろん、俺が地球人代表として、地球支部のことを決めちゃいけませんが」
「ふふっ、宏斗さんはまず私と結婚するかどうかを考えてくれればいいです。私はゆっくりとその答えを待ちたいと思いますから……ここで」
「そうしてもらえると有り難いです」
ただ、普通の人とは違って、エリカさんと結婚するということは、ダイマ王星との繋がりができるということだ。地球支部計画を知ってしまった以上、そういうことも考えて結婚を考えなきゃいけないな。
まずは一緒に共同生活をして、エリカさんという人を知っていくことにするか。
「それにしても、エリカさんは日本語がお上手ですよね。地球のこともよく勉強されているようですし」
「地球に行くこともあって、ダイマ王星にいる頃に地球のことを勉強してきました。それもダイマ星人が、定期的に地球の情報を手に入れてくれたおかげでもあります。言葉として日本語を含め、英語、中国語、フランス語、ドイツ語などを習得しました。王族やその関係者、地球研究者、そういった職業を目指す学生さんなど、多くのダイマ星人が地球のことについて勉強しています」
「教育熱心な星なんですね」
きっと、地球支部ができることを見据えて、地球について勉強する人も多いんじゃないだろうか。
まさか、地球にここまで関心を持っている惑星が遥か遠くにあったとは。もしかしたら、ダイマ王星以外にも地球に興味を持つ惑星があるかもしれない。
「それにしても、宏斗さんは20代なのにしっかりしていますよね。ちなみに、聞き込みの中で宏斗さんの年齢が27歳だと分かりました」
「そうですか。部下を何人も持つにようになって、仕事を始めた頃に比べてより責任のある立場にはなりましたね。もし、エリカさんさえ良ければ年齢を教えていただけますか」
「もちろんいいですよ。地球の時間に換算すると……110歳ですね」
「えっ、110歳ですか?」
まさか、見た目は若々しいけれど、かなりのお婆さんだったりして。地球についての知識もかなりあったようだし。
「色々と考えているみたいですが、ダイマ星人にとっての110歳は年寄りではありませんよ。成人として扱われるのは50歳からですけど。子供だって長ければ400歳くらいまで産めるんです! ちなみに、平均寿命は600歳くらいです」
「600歳……とっても長生きなんですね。地球人はだいたい平均寿命は80歳くらいですから、7.5倍ですか」
地球人より長い寿命だとしても、20年はさすがに寝過ぎな気がする。よっぽど気持ち良く睡眠できたんだろうな。
「さてと、結婚したいと思える地球の方を見つけたとお母様に報告しないと」
「それってどのようにやるんですか? エリカさんのお母様はダイマ王星にいるんですよね? 宇宙規模で使える通信端末があるんですか?」
「端末はありますが、それは魔法が使えない人との通信に使います。私もお母様もテレパシー魔法を使うことができますので、それを使えばダイマ王星にいるお母様とも会話をすることができます」
「そうなんですか。というか、魔法が使えるんですね」
「はい。テレパシーはもちろんのこと、透視魔法、瞬間移動、催眠魔法など様々です。魔法が使える種類や強度は個人差がありますけど」
「へえ……」
魔法まで使えるとは。ダイマ星人がより凄い方達なんだなと思えてくる。それと同時に自分のできることってあまりないんだなと。
エリカさんはテレパシー魔法に集中しているのか、目を閉じている。こうして静かにしている様子を見ると、彼女って本当に美しい印象を持つ。
「宏斗さん」
「はい」
「お母様があなたの姿を見てお話がしたいそうです。もちろん、母は日本語が話すことができますので安心してください。あそこにある……テレビジョンでしたっけ。それにダイマ王星にいるお母様の様子を映したいのですがよろしいですか?」
「分かりました。じゃあ、ソファーの方に移動しましょうか」
「はい」
まさか、ダイマ王星で一番偉い女王様とお話しすることになるとは。今朝、出勤するときには想像もできなかったな。
エリカさんと一緒にソファーの方に行き、隣同士に座る。
すると、エリカさんの魔法なのか、テレビの画面にドレス姿の女性が映る。彼女はエリカさんと同じような耳がついている。エリカさんと雰囲気が似ているけれど、この女性の方が大人っぽいというか。
「お母様。ご紹介します。こちらの男性が、私が結婚したいと考えている地球人の風見宏斗さんです」
「初めまして、風見宏斗と申します。日本という国でIT関連の仕事をしております。一般の人間です」
『風見宏斗さんですね。初めまして、エリカの母親であり、ダイマ王国女王のルーシー・ダイマと申します。私のことは遠慮なく名前で呼んでくださいね。以後、お見知りおきを』
思ったよりも気さくな感じの方だけれど、相手は一国の女王。言葉には気を付けて話さないといけないな。画面の向こう側にいるルーシーさんの姿を見てそう思うのであった。
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