第12話 織田信長、オサレ時空に現れる
「こ、こんにちは……!」
ぎこちなく挨拶する。
休日、コウ太と信長がやってきたのは、都内某所の
白が基調の採光を多めなモダンな校舎、緑鮮やかなキャンパス――。
なんというか、オタクを寄せ付けぬオサレどもの要塞みたいなところだ。
敵地に来たのだと、コウ太は覚悟を決める。
「みんな、コウ太さんとノブさん連れてきたよー」
このちゃんの案内で、駅から歩いて十五分の立地にやってきた。
やはり、このちゃんは声のイメージ通りちっちゃくて可愛いらしい女の子である。
よくしゃべって明るい。おかげで、一緒にいてコウ太もキョドらなくてすむ。
待ち合わせの目印に、『永い後日談のネクロニカ』のるるぶを選んで掲げる独特のセンスの持ち主なのも、コウ太が安心できる点である。
「こんにちわー、初めまして」
室内では、学生と思しき若い男女数名と、フワッとしたオサレな印象の年上の男性が待っていた。にこやかに挨拶してくる。
年齢は信長より少し年下ということだが、もっと若く見えるのはそのファッションの影響もあるだろう。「カジュアル」「初夏の装い」「メンズ」「四〇代」で検索すると出てきそうな、いかにもな雰囲気である。この人が“このパパ”こと
信長と目が合うと「おっ」という顔をした。
岸辺教授はオサレ学生相手に教鞭を執っているだけあって、信長の装いに目が行ったようだ。コーデバトルにおける戦闘力の計測をしているのであろう。
ぶっちゃけ、今の信長は結構かっこいい。
例の口髭でちょいワル感を出しつつ、ベレーを斜めに被って月代を隠している。
ボトムスは、黒のデニムに白のベルト。トップスはサテンレッドの七分袖のシャツに黒のインナー、ベルトと揃いの白のナロータイという組み合わせ。なかなか洗練された雰囲気だ。
胸元のチェーン付きシルバーピンがいいアクセントになっている。
スラッと姿勢がよく、腰回りは細いという絞った体型によく似合っていた。
コウ太には、こういう格好はとても真似できない。
『
描き眉の化粧に、
ファッショナブルで人目を惹く姿であったのは間違いなく、洋装にも抵抗がない。
さすがは
信長のコーデは、前日にコウ太がデパートに連れられたときに選んだものだ。
店員も、信長のセンスを褒めていた。
ついでに、コウ太のコーディネートも信長が店員と相談して決めた。無理に着飾ったわけではないが、脱オタ手前くらいには清潔な印象の装いになっている。
コウ太は顔が大きいから首に何かかけるとよいと、シンプルなネックレスと淡い色合いのストローハットを選んでもらっている。
おかげで、オサレの
ここは、岸辺教授が主催するTRPG同好会が会場として押さえている教室だ。
「ノブさんもコウ太さんも声のイメージ通りだった!」「ノブさん、かっこいいー」「アラフィフってほんと?」「教授にも負けてないよね」
このこのちゃん、通称このちゃんがサークルのメンバーに信長をアラフィフゲーマー“ノブさん”として紹介する。
メンバーたちも、揃って信長のファッションを褒め称える。
何故かコウ太も誇らしい気分になった。
驚け驚け、オサレども。こいつ、こう見えて戦国武将なんだぜ。
「じゃ、みんな挨拶して」
このちゃんから紹介されたメンバーが自己紹介をする
“カッコちゃん”、このちゃんの同中学の部活の後輩、中一女子。
“れのんちゃん”、高三女子。今年度この大学を受験予定。
“サツキくん”、高二男子。無口タイプ、イケメン勢。
「隙ありー」「わひゃっ!?」
ヘンな声が出た。カッコちゃんがコウ太の脇腹をふにふにしてダッシュで逃げる。
去年まで小学生だもんなぁ。そういうことするよな。
「駄目だよ、カッコちゃん。コウ太さん困ってるじゃん」
いや、困ってないです。むしろ嬉しいです。
喜ぶと事案ですけど。
何故こうなったのか。
信長が軍資金の調達と諸々の買物をしてきた夜までさかのぼって説明しよう。
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