ダブルクロス3rd小説風リプレイ 「三つの烏兎を巡る話」

京介

【introduction】すべての始まり

人間を愛するということ。それを疑問に思ったことはあるだろうか。

とある作家は言った「それは罪悪だ」と。

とある戯曲家は言った「長く続く愛とは、報われぬ愛だ」と。

人は愛し、愛されるために生まれてきた。愛がすべてを変えるのだと人は皆言うのだ。

愛のために助け合い、愛のために浮かばれぬ思いをし、愛のために憎しみあう。

だからこそ気になった。

それほどまでに人間を変化させる、"愛"とは何なのか。

あぁ、それが知りたい。それがきになるのだ。

探求心というものは果実を貪る虫のように、深く、深くまで蝕んでいく。

それに夢中になったが最後、その牙からは逃れられない。

知りたいのだ。私は。

"愛"というものを。

そして、娘がどうしてあのように変わってしまったのかを――。




***



 男は一人、パソコンに向き合っていた。

真っ暗な室内には誰もおらず、どうやら男は一人で何かをしているようだ。

パソコンの稼働音。それのみがその静かな部屋に響いている。

男は息を吸うのも慎重に、そしてカタカタという打ち込む音も立てぬように、"何かを探していた"。

こんな中で一人なのだから、その資料が重要且つ他人に見られたくはないものだということはわかる。

カタカタ…。

カタカタ…

カタ…。


小さく音を鳴らしていたタイプ音が、止まった。

画面から放たれる光で明るくなっている男の顔、正確に言えば彼の口元が小さく歪んだのを誰も目にはしていない。

男だけが気づき、男だけがそっとそれを窘めた。

まじめな顔に戻った男の目線の先、そこに表示されたのはとある文字列であった。


Project ADM QADMWN.


それは禁忌の研究。人と神との間に垣根がないことを示す資料。

欲したもののために存在し、興味を示したもののために凍結されたその資料こそ、彼の目の前にあるものであった。

あぁ、見つけた―――。

男はもう一度顔を歪めた。


「これで私の目的への一歩が進められる」


小さく呟いた言葉は誰にも拾われない。

男はひとりだったのだから、当たり前のことだろう。

そして、彼はその機械に手を伸ばした。

息を小さく吸い、吐くと、常人ではわからないレベルの電流が機械に流れる。

バチリという音を立て、画面が明滅する。

するとパソコンに表示されていたその資料は画面からいなくなっており、その代わりに男の手には一つの記憶媒体が握られていた。

カツリ、カツリ…。

もう用はないと、用済みだといわんばかりの音を立てながら、男はその部屋を後にする。


そして始まるは悲劇の舞台。

"愛"の意味を求めた男が起こす、三つの事件。

そして、三つの烏兎を巡る、お話。


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