122  二人のバラガキⅨ

「やはり知りませんでしたか……」



 エミリーは自分の手帳に刻み込んだ言葉を探しながらページをパラパラとめくる。



 すると、ようやくそのページが顔を出す。



「名前はノーマン・オリファン。今から四十年前に在籍していた生徒です」



「ノーマン・オリファン……聞いたことない名前だな」



「それもそうです。彼が在席していた期間は、たったの一年。知るぞ知らずの人物です。今はどこで何をしているのかも謎の人物でもありますけどね……」



 エミリーは過去に書いておいた自分の文字を見ながら少し考え始める。



「ここに書いてある事によると、図書館にその人物の本があるらしいですよ」



「本? 昔のお前は結局何がしたかったんだよ」



「そんなに訊きたかったら過去にでも飛んで昔の私に訊いてみてはどうですか?」



「無理を言うな。過去改変は禁忌魔法の一つ。やってはならない事だ。そもそも俺は錬金術、魔法は使えない」



 デミトロフは、エミリーから氷袋を受け取り、額を冷やす。



「でも、もしかするとそれにヒントが載っているのかもしれない。その本が置いてある図書館は今、どこにあるんだ?」



「第三図書館、通称・ゴミ屋敷です」



「ゴ、ゴミ屋敷……。探すのは大変そうだな」



「そうですね。それでどうします? 明日の訓練は休みますか?」



「頼めるか?」



「私を誰だと思っているのです。対策は何百、何千通りも揃えておりますよ」



 エミリーは、フッと、笑った。

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