110  氷の女王XIII

 初めて重い引き金を引く。



 撃った弾は、的の右斜め上をかすり、土の壁に埋まる。



「駄目ですね。まだ、集中しきれていません」



「でも、今、当たったんですけど……」



「当たっていません。ただのかすり傷ですよ」



「厳しすぎない?」



「そうですか? 厳しくないと狙撃の腕は上がらないんですよ」



 エミリーは呆れて、現実を言う。



「いいですか? しっかりと集中してください。一発一発を大切に後が無いと思って狙撃するんです。私は隣の二百メートル狙撃場で撃ってますので何かあったら呼んでください」



 エミリーは壁に飾られてある銃を手に取り、薬莢の入った二十四個・一ケースを持って、隣で狙撃の準備を始める。



「ちょっ、ちょっと!」



「何ですか?」



「僕、銃の弾の入れ方とか知らないんだけど……」



「そこのマガジンに補充すればいいだけです。弾は無駄うちにしないで下さいよ」



 と、簡単なことしか教えてくれなかった。




     ×     ×     ×




 ――――ふ……確か、あんなことがありましたね。相手の脳天を撃ち抜く。



 ――――覚えているなんてないすよね……。



 エミリーは、狙撃ポイントを見つけると、屋上で寝そべり、狙撃の準備を始める。



 目の前に小さな壁が出来ており、狙撃をかわすには十分な盾である。



 時計塔からの距離は約二百メートル。



 当てる自信は十分にある。天候は少し雲がかかってきて、絶好の狙撃日和だ。光の反射を気にせずに一点集中できる。



「さて、もうそろそろ着いている頃でしょう。ジョン、私はあなたに負けません」



 エミリーの眼球が光る。






 一方、デミトロフは時計塔の頂上に到着していた。



 四方八方、三百六十度フィールド全体を見渡すことができる。



 エミリーがいる場所を探すには時間がかかる。



 ――――ここから半径二百から三百範囲内にいるだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る