092 若き魔導士の追憶Ⅴ
「だーかーら、俺は今、食べる気がしねぇって言っているんだよ!」
デミトロフは持っていたトレイをテーブルの上に勢いよく置く。
「ジョンはここで大人しく先に食べていてくださいって言っているでしょ? それとも何ですか、この後、あなたの体がボロボロになっていてもいいと?」
エミリーは微笑みながら、デミトロフに物騒な事を吹き込む。
「いや、なんでもない……。食べればいいんだろ、食べれば……」
デミトロフは、大人しく椅子に座り、目の前でおいしそうにステーキを食べている少年を見ながら自分の定食を渋々と食べ始める。
エミリーは自分の昼食をテーブルにおいて、椅子を探しにどこかへと消えていった。
二人取り残された空間は思ったよりも重く、静かに食べ物を口の中に入れる。
気に食わない相手が目の前にいて、口に入る料理が美味しいわけがない。
デミトロフは、目の前の少年を視界に入れないようにイライラしながら食べる。
「貴様、名前は何という」
一応、訊いてみる。
「人に名を訪ねる時は自分からって知らないのか? これだから金持ちは困る……」
「ぐっ……」
少年に馬鹿にされ、デミトロフは怒りを抑えながら、グッと堪える。
「ジョン。ジョン・デミトロフだ! 錬金術科に所属している」
「ふーん。ジュラ―ド・ハウロック、魔法科だ」
「ジュラ―ド・ハウロック? どこかで聞いた名だな」
デミトロフはハウロックの名前を訊いて、頭を悩ませる。
「待てよ。この前の一般テストで俺より上にいた奴がいたな。確かあれも……ジュラ―ドと書いてあったような……」
つい最近行われたテストの結果を思い出す。デミトロフは成績優秀で学年二、三番を維持している。もちろん、学年一位はエミリーであり、初等部から今まで一位以下を取ったところを見たことが無い。
「ああ! お前、今回のテストで俺よりも上だっただろ!」
「ほう。――――って、事はお前、俺より下だったのか。いい気味だ」
「貴様に言われたくない。その前は俺が二番だった」
デミトロフもムキになって、ハウロックの挑発に乗る。
「でしたら、二人とも私より下なんですから馬鹿っていう事になりますね」
二人の間に椅子を持ってきたエミリーが入ってきた。
確かにエミリー以上の秀才はいない。
「げっ、もう戻ってきたのかよ」
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