063  剣の魔導士とそこにあるものⅦ

 マーロスは皿に載せたおにぎりを裕也のすぐ目の前に出し、そのまま手を使わずに裕也自ら自分で食べさせる。



「一つ聞いていいか?」



「なんだね?」



「賢者の石擬きと黒魔法擬きがあるとして、なぜ、白魔法が無いんだ? この世の理として、全ての真理にたどり着くには三つの鍵がいると聞いたことがある」



 食べながらマーロスに訊く。



 賢者の石、黒魔法、白魔法の三角関係は、魔導士や錬金術師にとっては深く研究されてきたものである。



「それはただの仮説にしか過ぎない。錬金術師が科学者とするならば、魔導士はどう表現すればいい? 私はこう思った。ただの亡者にしかすぎないとね……」



「亡者……だと?」



「そうだ。亡者だ。魔導士は自分の持つ力以外にも欲しくなる生き物だ。錬金術が科学者ならば、魔導士は得体に知れない亡者という事だ」



「なるほどね……。まぁ、考え方は人それぞれだと俺は思う。俺は魔導士も錬金術師も同じ科学者であり、探究者だと思っているさ」



「つまり、君と私では思考が違うようだ」



「そうなるな……」



 裕也は食事を終えると、梅干しの種を吐き捨てる。



 マーロスはそんな裕也を見て、微笑みながら立ち上がり、再び開いた檻に鍵をする。



 囚われの身である裕也にとっては時間がない。



 だが、これは自分で選んだ道、外に裕也の遺志を継ぐ三つの魂を残してきた。



 運が良ければ、奴に会えるのだろうと考えたのだ。



 ――――さて、どうやって抜け出そうかな。



「私は職務に戻る。言い忘れていたが、二日後だ」



「二日後?」



 マーロスがいきなり二日後と言い出し、裕也はキョトンとする。



「二日後の夜、月は満月になる。知っているかい、満月の月は、不思議な力を与えてくれると昔の本に書かれてある」



「月ね……」



「それまでせいぜい、これまでの人生を振り返る事だな」



 そう言い残して、マーロスは地下牢から姿を消した。



 取り残された裕也は、深々と溜息を漏らし、天井を見上げる。

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