032  三年後の世界Ⅸ

 と、一方的に電話を切られた。



「待ってろって……。どれくらい待てればいいんだよ……」



 受話器を置き、電話がかかってくるまで目の前の椅子に座って堂々と待った。






「――――ったく、こんな時に奴から連絡してくるとは……。エミリー、あいつに手紙を渡したのは四日ほど前だったよな?」



「はい。彼の仲間であるフタバに渡しましたけど……」



「あいつに渡したのか? 道理であいつが怒っているわけだ。フタバに渡したらすぐにあいつの手に渡らないことぐらいお前にも分かっているだろ?」



「すみません。ですが、あれほど同じ顔が並んでいたら間違えない方がおかしいと思いますけど……」



 デミトロフの前で叱られているのは、エミリー・ウィリアム大尉である。



 彼女はデミトロフの側近であり、尉官の階級では二番目の実力の持ち主であるが、元々、デミトロフの部下であり、彼とは七年以上の付き合いである。



「そうだな。あの三つ子を見分けられるのは至難の業だな。その点は俺のミスだ。だから、俺は今から外に出てくる。ここだと誰に盗聴されているか分からないからな」



 デミトロフは立ち上がった。



 黒いコートを羽織り、自分の身分が分からないようにカモフラージュする。



「分かりました。大佐の不在の間、私がここの管理をしておきますので、ゆっくりと帰って来ても大丈夫ですよ」



「そんなにゆっくり帰ってこられたらの話だけどな……。今日は寒い、帰ってきたときはお前の入れてくれた美味しい紅茶でも期待しておこう」



「はいはい、分かりましたから早く行ってきてください」



 エミリーはデミトロフの背中を押し、外に追い出そうとした。



「お、おい! 押すな!」



 デミトロフは体を押されたまま外にほっぽり出されると、扉が思いっきり閉められ、仕方なく歩き出した。



 ――――確かに今回向こうに行けないのは確かだ。それに将官以上のクラスの連中が怪しいのは確かだろうな。



 ――――このことに関しては奴らも把握しているだろう。即急に手を打たなければな。



 デミトロフは敷地内の外を出て、中央司令部から少し離れた場所にある公園の公衆電話まで走り続ける。



 たどり着くと、コートのポケット内に入れておいた小銭を投入口にいれ、受話器を持って、電話番号を打ち込む。

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