人の恋しき 6


 通話を切って戻って来た弘人に言うと、「全然ッ」と憮然と首を横に振った。


「俺達を連れて行く条件は、『姉貴と潤一さんの邪魔をしない事』だってさ」


「ジュンイチさん?」


「そ。姉貴の彼氏。元々カップル同士で行く予定だったんだってさ」


「ふーん」


 フッと笑みを零した弘人は、「カップル同士かぁー」と言いながら俺の髪に触れてきた。


「なんだよ?」


「いや、さっき触ってくれてたの、気持ちよかったから。――気持ちいい?」


 俺の前に立つ弘人は、珍しく大人びた表情をしている。俺はその顔を見ていられなくて、瞼を閉じた。


「起きてたのかよ?」


「あんだけ触られりゃね。どう? 気持ちいい?」


「んー。……イマイチ」


「なんでだよーッ」


 途端にガシガシと髪をかき混ぜてくる。目を開けると、ぶぅーといつものように頬を膨らます弘人の顔があった。



 ――そうだな。お前はそうやっていつも通りでいろ。





 俺が、手首を掴む以上の衝動を抱かないように。友人に対して嫉妬なんかしないでいいように。



 そしてこの友情が、壊れてしまったりしないように……。



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