さしも知らじな 1


 猪名寺の駅前。


 改札の前に立って、俺は流れ出てくる人 波を見ていた。


 何度目かの波に、何度目かになる知っている顔達を見つけ、「おー」と手を振る。何人かは手を振ってそのまま通り過ぎ、何人かは俺の前まで来て一言二言言葉を交わし、元の波へと戻って行った。


 俺はさっきから顔では笑顔を作り、右手では手を振って、そして左手にはずっと携帯を握りしめている。


 俺の親友、磐木祐志からの連絡。それが 着いたらすぐ判るように。


 例えそれが、来れないって連絡だったとしてもさ……。


 あんなに祐志と気まずくなったのなんて、久々だった。いや、あそこまで酷いのは初めてと言ってもいいくらいだ。


 俺はきっと、調子に乗り過ぎたんだよな。あいつの事情も考えず、「俺が行くんだから、祐志も行くの当たり前」みたいに考えて。


 あいつが以前言ってくれた言葉につい、甘えちまって……。


 もう考えなしの我儘は言わねぇし、只あいつの負担になるだけの事は、ゼッテーしねぇ。


 ホントにしねぇぞ、と何度目かの誓いを心の中に刻んで、俺は携帯を握る手にギュッと力を込めた。

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