忍ぶれど 6

 抑えられず出てしまった苛立ち混じりの声は、仕方ないと思う。


「ごめんな、祐志」


 何に対して謝ってんのかなんて、きっとこいつは解っていない。


 ――俺の気持ちも。相沢への台詞の意味も……。


「お前は――ッ」


 衝動的に、弘人の頭を引き寄せる。


 一瞬だけ。俺の肩に頭をぶつけた弘人が、驚きに顔を上げた。


 その瞳と視線がぶつかる前に、急いで歩き出す。何かを言いたげに手を伸ばした弘人がそれでも何も言えず、視線だけを俺の背中へと貼り付けた。


 そのまま無言で歩き続け、俺が中央階段を下り始めてやっと、あいつは声をかけてきた。


「――祐志。部活は?」


 僅かに沈んだままのその声に、ゆっくり振り返り「サボる」とだけ口にした。


「…………」


 驚きに絶句する弘人を置いて、足を進める。踊り場を曲がる寸前、手摺りに手をかけて弘人を見上げた。


 目を見開いたままの弘人は、無言で俺を見下ろしている。


「何時にすんだよ?」


「……えっ?」


「待ち合わせの時間。あと場所も」


「え。だって……」


「楽しみにしてたんだろ? 花火。――そん代わり、部活はサボるぜ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る