忍ぶれど 1

「なーなー。今日の花火大会、一緒に行かね?」


 明日に終業式を迎えた日の放課後。


 鞄を肩にかけながら周りを見回した織田弘人は、声を張りあげて言った。


「花火大会?」


「どこの?」


 相沢弘和を含めた何人かが、その言葉に反応する。


「猪名川」


「いながわ~?」


「今日だっけ?」


 顔をしかめる奴や首を傾げる奴、様々だったが、その中心で弘人はニコニコと笑顔を浮かべていた。


「私行くよ、彼氏とだけど」


「俺も。もう約束しちゃってるし」


「おーおー、いいねぇ。彼氏彼女のいる方々は」


 涙を拭う仕草をした弘人が、『彼女いない組』へと期待を込めた顔を向ける。


「ちょっと遠いなー」


「部活あるし」


「バイトあるし」


「えー! それ終わってからでも行こうよー」


 子供のようにはしゃぐ弘人に、何人かは「んー」と迷いの声をあげた。


 1番最初に反応したクセに、その後は我関せずと鞄の整理をしている相沢へと、弘人が歩み寄る。


「なーなー、相沢」


「駄目。俺、人込み苦手」


「はい?」


 カクン、と首を傾げる弘人から俺へと視線を流して、相沢は鞄を持ち上げた。

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