しづこころなく 19

「でも俺は、今までそれが『いい事』だと思ってた。ちょっとくらい自分の趣味じゃなくても喜んだフリ出来るし、ちょっとくらい俺の口に合わなくても、褒めるくらい出来た」


「ふーん」


「でもさっき。――あの桜見てお前が感動してくれた時。それが間違いだって、気が付いた」


「えっ?」


 弘人は拗ねるように唇を尖らすと、何かを詫びるように声を落とした。


「やっぱ嘘は嘘でしかねぇんだよ。……敵わないって思った。『へぇ』ってたった一言、お前は言っただけなのに、俺はあん時、すげぇ嬉しかったんだ」


「…………」


 しばらくの沈黙。


 それきり弘人も口を開かない。何に対しての罪悪感なのか、自己嫌悪なのか知らないが、自分を責めているようだった。


 ――でも。


「でも、嘘じゃねぇだろ」


 ボソリと呟いた俺に、今度は弘人が「えっ」と驚いた顔を向ける。


「お前さっき言ってたじゃん。お前が喜んでんのは、自分と趣味が合ってるからでも、その料理が美味いからでもねぇんだろ? 『プレゼントくれてありがとう』、『おすすめ教えてくれてありがとう』、なんだろ?」

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