しづこころなく 16

「だから。『究極の選択』で俺は、たぶん気を遣ってもう1人を助けてるんだよ。――助かりたいのは2人共一緒じゃん。でもお前になら、俺が死んでから『ご免!』って頭を下げたら許してもらえるっていうか。もう1人の命を奪う程の責任を、俺は負えないっていうか……。解る?」


「全然。――っていうかお前、俺を見殺しにしといて『ご免』の一 言で済ます気か?」


「じゃなくてぇ!」


 割り箸をガジガジと齧りながら、隣で弘人が唸っている。それを一瞬チラリと見遣って、俺は桜に視線を戻した。心の澱みは少しずつだが、澄んできている。


「じゃあ、これならどう? 例えば俺が、今みたいに誰かに公園に呼び出されたとしよう。したら、思った程桜が綺麗じゃなかったとしても、俺は大袈裟に喜ぶ」


「呼び出したのが俺なら、喜ばないのかよ?」


「…………喜ぶ」


 ボソリと不満げに呟いた弘人に、肩の力が抜ける。


「何が言いたいんだ、お前は?」

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