しづこころなく 11

 しばらくぼんやりと桜を眺めていると、駆け寄って来る弘人の気配がして、顔を向けた。


「お前さぁ、確かに綺麗な桜だけど、明日でもよかったんじゃねぇの?」


 夜だけの綺麗さってのも確かにあるだろうが、この桜なら昼間に見ても変わらず綺麗に映えるだろう。


「えー。お前明日の天気予報知らねぇの? 明日、雨だぜ」


 何やら手に持っていたものを俺に押し付けながら、弘人が言う。


「祐志はコーラでいいだろ? おばさんにはコレ。紅茶好きそうだから」


「あぁ?」


 手元を見ると、コーラとミルクティの缶が掌に乗せられている。


 炭酸持ってんのに、走って来たのかよ、こいつ。


「母さんの分はいらねぇのに」


「まあまあ。俺の感謝の気持ちってコトで」


 弘人は俺の隣に腰を降ろしながら、眩しそうに桜を眺めた。


「さっきコンビニの帰りにコレ見つけてさ、ぜってぇ祐志に見せてやりたいって思って。――あ、天ぷらもらっていい?」


「ああ」


 弘人はガサガサと袋を開けて、天ぷらの乗った紙皿と割り箸を取り出した。


「はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る