しづこころなく 10

「……話? 俺、話があるなんて電話で言ったっけ?」


 真面目な顔で首を傾げる弘人に、俺は嫌な予感と共に口を開いた。


「まさか……。桜見せる為だけに、俺を呼び出したってんじゃ……」


「ところでさ。さっきから気になってんだけど、その袋何?」


 俺の台詞を最後まで聞かず、弘人がカゴを指差す。


 忘れてた、と出かかる言葉を呑み込んで、無言で袋を突き出した。


「何?」


「……母さんから、天ぷら。晩飯の残りだけど」


「え? いい匂いがしてる気がするなぁとは思ってたけど。――っ て、まだあったかいじゃん。もしかして、揚げたて?」


「お前に電話してから」


「えっ、うそ! ……んー、えと。ちょっと待っててくれ!」


 両手で持っていた袋をベンチに置いて、猛ダッシュで公園から出て行く。


 ――なんだ、アレ。


 呆れ気味にその背中を見送って、俺はベンチへ腰を降ろすと、桜へと視線を戻した。


 やはり、凄く綺麗だ。


 四方に広がる枝っぷりも、外灯に浮かぶ淡い花の色も、チラチラと舞い降りる花びらも、そこだけがポッカリと異質で、その全てが幻想的に見えた。

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