心も知らず 8

「……ふうん」


 いつの間にか俺の真後ろに立っていた大城が、笑いを含んだ声で呟く。元々機嫌のよくない俺は、喧嘩なら買うぞ、ぐらいの勢いで切り 返した。


「言っとくけど、文句言うなら――」


「いや。いいんじゃない?」


 もう描かないから、と言いかけた口が、そのまま止まる。


「……は?」


 あっさり言った大城は、少し離れたりしながら「小学生が描いた」と言っても誰もが信じるだろう、俺の拙いデッサン――とも呼べないかもしれない。なんせ、嫌々輪郭を描いただけの状態なんだから――を眺めている。


 その顔は、バカにしてんでも、揶揄からかってんのでもなかった。だって、目が真剣だったから……。


 半笑いだけど。


「2日かかって、こんだけしか描けてないんだけど……」


 口を尖らして言うと、大城は「うん」と返してきた。


「めっちゃヘタクソなんだけど…」


「まあね。――でも、面白いよ」


「は?」


 ニヤリと笑って俺の顔を見遣ると、大城は言葉を続けた。


「2日分の苦労が、凝縮されてる」


「苦労?」


 スゲェいい加減に描いただけ、なんだけど……。

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