心も知らず 7

 祐志が首を傾げた拍子に、耳朶に触れたままだった手が顎のラインに沿って触れる。


「え? ……あっ。ごめん」


 パッとすぐに離すつもりだったのに、指先は名残惜しそうに祐志の頬をなぞった。


「くそっ」と呟いて真っ赤になった俺に、祐志がクスクスと笑う。


「そんなに触り心地よかった? 俺の耳」


「うっせぇ。お前も昔はよく自分で触ってただろ。左の耳朶」


 そう言った瞬間。


 明らかに空気が変わった。驚いた顔で俺を見上げた祐志が、そっと視線を逸らせる。


「まあな。クセだったから」


 ――なんだよ、この間。


 心臓がチリチリして、嫌な予感がした。


 祐志のその視線の先には、『誰か』がいる気がした。


 意味ありげに黙り込む祐志にムッとしていると、ガラリとドアの開く音がして大城が顔を覗かせた。


「僕はもう帰るけど、君達はどうする?」


「あー……。俺達もそろそろ、帰ろっかな」


 等閑に頷いて席に戻ると、そのまま帰るのかと思っていた大城が中に入って来た。


 祐志の油絵を見て「うん」と頷き、ぼそぼそと何やら助言をしているようだ。俺は鉛筆を片付けて、窓の外をぼんやりと眺めていた。

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