君がため 6

 俺の気持ちも知らず、後ろで階段を下りながら弘人が悠長に問いかけてくる。反射的に弘人を振り向いた俺は、驚きを隠せなかった。


「無表情? ……いや。あれは、考えてたんだぜ?」


 まさか、お前の事を考えていたとも言えず、俺は曖昧な返事を返す。


 それなのにこいつは、それでは納得しない。何を? なぁ何を? と言いたげな瞳を俺に向け、首を傾げている。


「あのな」


 俺は仕方なく足を止め、弘人を見上げた。


「想像してみてたんだよ。例えばさっきの卒業生、卒業するって事は、会うとしたら放課後か休日になんだろ?」


「そうだろな」


 ふむ、と頷きながら弘人が答える。


「んーと、映画観たり? サ店行ったり? 後は遊園地とか水族館?」


「まあ、そんなトコじゃねぇ?」


「こいつと行って楽しいかなぁ? って考えてみんの」


「はぁ?」


 意味わかんねぇ、と言外に言って、 弘人が眉を寄せる。


 わかんねぇのかよ、バカ。と言いそうになるのを堪えて、俺は再び階段を下り始めた。


「んで? 考えてみて? そしたらどーなるワケ?」

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