君がため 4
一度断ったら、視界にすら入ってこなかった。向こうが避けてんのか、俺の意識にすら残っていないのか……。
所詮その程度。俺も、相手も。
「祐志~」
――と。
いつもの間の抜けた、あいつの幻聴が聞こえた気がした。
そういや。あいつだけは、俺が何度「ウザい」と言っても懲りずに話しかけてきた。いきなりの友達ヅラに何度「うっとおしい」と言っても、カラカラと笑っていた。
キュッ、と。今度は明らかに幻聴じゃない音が耳に届く。視線だけをそちらに向けると、慌てて壁に隠れる弘人の背中が見えた。
――何やってんだ、あいつ?
ヒョッコリと壁に貼りつくように半分だけ覗いた顔が、ストーカーのようだ。
左側に視線を感じながら、笑いが込み上げてくる。
帰らなきゃ、と思った。今すぐ、あいつの所に。
「……すみません……」
まだ何かを一生懸命話している彼女に、声をかける。俺には、これしか言えない。
いくら言葉を紡がれても、俺の耳には届かない。1度きりの接点では、俺の記憶には残らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます