君がため 4

 一度断ったら、視界にすら入ってこなかった。向こうが避けてんのか、俺の意識にすら残っていないのか……。


 所詮その程度。俺も、相手も。


「祐志~」


 ――と。


 いつもの間の抜けた、あいつの幻聴が聞こえた気がした。


 そういや。あいつだけは、俺が何度「ウザい」と言っても懲りずに話しかけてきた。いきなりの友達ヅラに何度「うっとおしい」と言っても、カラカラと笑っていた。


 キュッ、と。今度は明らかに幻聴じゃない音が耳に届く。視線だけをそちらに向けると、慌てて壁に隠れる弘人の背中が見えた。


 ――何やってんだ、あいつ?


 ヒョッコリと壁に貼りつくように半分だけ覗いた顔が、ストーカーのようだ。


 左側に視線を感じながら、笑いが込み上げてくる。


 帰らなきゃ、と思った。今すぐ、あいつの所に。


「……すみません……」


 まだ何かを一生懸命話している彼女に、声をかける。俺には、これしか言えない。


 いくら言葉を紡がれても、俺の耳には届かない。1度きりの接点では、俺の記憶には残らない。

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