君がため 2

 何が悲しくて階段を下りて渡り廊下を渡り、また階段を上って、今度はその逆を繰り返さないといけないんだ。それも1人で。帰りには鞄を2つ持って!


 もう、溜め息しか出ねぇ。


 やっと自分の教室が見えてくると、そこには見た事もない女生徒が立っていた。卒業証書を持っているところからして、3年だろう。誰かを待っているような素振りなので、他にも教室に誰かいるのかと、ドアが開いたままの教室を覗き込んだ。


「……あっ……」


 後ろの卒業生から声が洩れる。振り向いた俺の顔を一瞬驚いた顔で見上げ、すぐに俯いてしまった。


 なんなんだよ、と教室に入りかけた俺に「あの……磐木君」と声がかけられ、足を止めた。


 なんだこいつ。なんで俺の名前知ってんだ?


 怪訝に振り向いた俺に、相手はもうすでに視線を落とし気味だ。


 ――ああ、そうか……。


 幾度か経験のある雰囲気。それに溜め息は吐かないまでも、抑揚のない声で「なんですか?」と相手に問いか けた。


「…………」


 中々話しださない女にイライラする。舌打ちしそうになるのをグッと堪えて、ひたすら相手の言葉を待った。

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