もろともに 2

 その背中を見送っていた祐志がこちらを振り向く。反射的に隠れた俺は、近付いてくる足音に、つい今しがた上がって来たフリをするべきか、取りあえず階段を下りて逃げるべきかと速攻で思案していた。


「弘人」


 と。俺を呼ぶ声が――。


 無駄だった。あいつはいっつも勘だけはいいんだ。


 俺は諦めて、祐志の前へと姿を見せる。


「何やってんだ、お前」


「別に」


 そっぽを向いた俺に「あっそ」と答えて、祐志が階段を下りて行く。それを慌てて追いかけて、祐志のすぐ後ろについた。


 明らかに見られたと気付いているだろうに、その背中は何も言う気配がない。仕方なく、こちらから口を開いた。


「なぁー。なんでお前さぁ、コクられる時っていっつも無表情なんだ? ――あれじゃあ、相手もしゃべり辛いだろうに」


 だらだらとついて行きながら言った俺に、顔だけで祐志が振り向く。その顔は、意外なほど驚きを含んでいた。


「無表情? ……いや。あれは、考えてたんだぜ?」


 考える? あの顔で? 何を? 付き合うかどうかですか?


 首を傾げる俺に足を止めて、「あのな」と祐志は眉を寄せた。階段の数段下から、俺を見上げてくる。

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