3-3 人造魔剣『十三番』
「人造魔剣、ですか?」
「ああ、そうとも。このハイアット第一軍事研究所、正確には第一から第三までの研究所は全てが人造魔剣の研究に専念している」
特に困難もなく辿り着いた研究所の中、ガノリアと名乗った痩せた研究者の男は、すんなりとそんな事を口にしていた。
「そう理解し難い話でもないだろう。人造の魔剣の生産が国の戦力を増強するために最も優れた手段である事は、子供でもわかる単純な話だ」
「しかし、それは成功すれば、の話では?」
「そうだな。だが、その辺りの判断は君達がする事だろう。私達研究者は、与えられた資金と与えられた環境で研究をするだけだ。異論があるならそちらで片付けてくれ」
リースの問いに、ガノリアは億劫そうに目を細める。
研究主任と名乗ってはいたものの、ガノリアはあくまで研究それ自体に対してのみの所轄であり、軍の意思決定には一切関与していないという事らしい。
「その人造魔剣の研究の進捗を確かめさせてもらう事はできますか?」
「構わない、早く済ませてくれ。ただ、まだ見てどうなるような段階でもないが」
ガノリアの言葉を受けて、リースと一瞬だけ目配せをする。
人造魔剣についての研究は、以前に見た実験資料の通りなら少なくとも試用くらいはできる段階に来ているはずだ。だが、ガノリアの口振りでは研究はそれよりもずっと遅れているように聞こえる。
「では、進捗を見るにはどこに行けば?」
「場所を移す必要など無いだろう。古い資料を見たいなら別だが、軍人が過程に興味を持った試しはない」
「つまり、人造魔剣はここにあると?」
「ここにあるのはあくまで試作品だ。それでいいなら、今から案内するが」
「……お願いします」
会話は微妙に噛み合わないまま、ガノリアが腰を上げる。俺とリースも、半信半疑ながらもそれに着いていくしかない。
短い距離を移動し、辿り着いたのは同じ建物内の奥にある倉庫区画だった。
「キリ、『十三番』を持って来い」
ガノリアの開口一番の言葉に、ちょうど倉庫から現れた研究員らしき細い眼鏡を掛けた女が顔をしかめる。
「毎度の事ですけど、私を小間使いのように扱うのはやめてくれませんか? しかも、よりにもよって『十三番』? あんなものをどうするつもりですか?」
「本部からの視察だ。あれくらいしか、見せて意味のあるガラクタもないだろう」
「なら、せめて主任も手伝ってくださいよ」
「バカか、二人で台車を押して何の意味がある。無駄口を叩く前に動け」
「……そうですね、あなたと話をしても無駄だったと思い出しました」
反論を諦めた女が倉庫の奥に戻っていく様子を、ガノリアは溜息で見送る。
「『十三番』とはどのような剣なのですか?」
「数ある失敗作の内の一つだ。私が説明するより、実際に目にした方が早い」
リースの問いは短く跳ね除けられ、そのまま沈黙が場を支配する。俺も気になる事はいくつかあるが、下手な事を言って怪しまれるわけにはいかないため無言を通す。
「――は?」
だが、沈黙は意図せず口から漏れた声に打ち破られた。
「持って来ましたよ。はい、持ってきましたとも」
女が台車に乗せて運んできたのは、布に覆われた縦横に人間の背丈ほどの大きさをした巨大な何か。
「これが人造魔剣『十三番』。破損した魔剣の残骸を組み合わせて作った、現時点では一番マシなガラクタだ」
そしてガノリアが覆いを外した下、そこにあったのは言葉通りのガラクタ、少なくともそのようにしか見えない雑多な金属片の塊だった。
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