ローランド探偵団事件奇譚
卯月 聖
第1話屍者狂詩曲~コープスラプソディ~ プロローグ
20世紀、イギリスのとある街。時刻は深夜の2時を過ぎた頃。人々は寝静まり、街は静寂の闇に包まれていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
その静かな街を一人の女性が必死に走っていた。まるで、この世ならざるものから逃げるように。女性は路地裏に入り、警察署までの近道を駆け抜ける。しかし、一切人の気配のない路地裏という暗黒の中へ逃げ込んだことが、彼女の「敗因」となった。
「……ッ?!」
女性は後ろから髪を掴まれ、尻餅をつく。
「いや……いや……!お、お願い……助けて……まだ、まだ死にたく……」
彼女の命乞いも虚しく、凶器が彼女の腹を貫く。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!痛い!痛い痛い痛い痛い!!!やめて!!やめて!!痛い!やめてぇぇぇぇ!!!」
女性の阿鼻叫喚を無視して、女性を襲う「ソレ」は無慚に切り裂き、鮮血を飛び散らせ、真っ赤な花を咲かせる。
いつしか女性は動かなくなっていた。それでも「ソレ」は鋭い刃、ナイフでもない包丁でもない、それを突き立て続けていた。それは、自身の歯だった。いや、牙といった方が適切かもしれない。「ソレ」は動かなくなった女性に何度も、何度も、何度も齧り付き、肉を引きちぎり、涎とともに血を垂らしながら、口の中で咀嚼していた。静寂の闇の中、クチャリ、クチャリと、人肉を貪る音だけが響く。その不快な音に、街の人々は気づくことはない。
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