第14話 episode:14


「梨々花ちゃん~なんだか携帯の画面をさっきから気にし過ぎじゃない?」




さては…連絡が来たのだな~




麗のニヤニヤした眼差しをスルーして、家路を進んでいた。




(何度見ても綺麗な空だわ…あったかい気持ちになる。)




「なんか…梨々花ちゃん最近、雰囲気変わったよね!!」




「えっ?そう?」




「今だって、なんか嬉しそうだし…」




「ふっ。それはこれのおかげかもね。」




特別に見せてあげる。と梨々花は送られてきた夕日を麗に見せた。




「梨々花も自分自身で驚いているわ。こんなに空の写真を見て気分がよくなるなんてね。」




梨々花って空がこんなにも好きだったのね…




「梨々花ちゃん…それって空が好きというより」






“送ってきた相手に対してじゃ…”




「ちょっといい?そこの2人さん。」




麗の言いかけた言葉をさえぎったのは工藤礼であった。




「あなたは確か…幸太郎君の金魚のフンでしたっけ?」




「工藤礼。いい加減名前覚えてよね。四天王さん。」






(なにこの修羅場…)




飛び交う火花の中、麗は1人青ざめるのであった。




「ごめんなさいね。梨々花は興味の無いことは覚えない主義なのよ。」




そう伝え、この場を去ろうとする梨々花に礼はしびれを切らす。




「逃げるつもり?」




“は?”




「逃げる?何を言っているのかしら。同じステージにも立ってないわよ。」




(私はここから逃げたいです…。)




なんでこの二人はこんなに険悪なのだろう…


麗は存在を消すために息を殺していた。






「一般市民の工藤礼さんが梨々花にどんな用事なのかしら。用件だけは聞いてあげる。」






「…あなた、幸太郎をどう思っているの?」




「どうって…」




一瞬だけ梨々花の表情が固まる。




「別に、友人だけれど。」




「友人、それだけ?」




「他に何があるのよ。まぁ、こないだまで顔見知りだったから…友人は大した出世ね。」




会社ならエリートクラスよ。




梨々花は嬉しそうに話す。




「エリートクラスね…」




「梨々花ちゃん男の子の友達いないもんね~!!」




息を殺していた麗も嬉しそうに話した。




「いや、それは麗もでしょ。」






「じゃあ、もしも私と幸太郎が付き合っても邪魔しないよね?」




再び空気が凍り付く。




「は?何よ、付き合うって…」




「梨々花ちゃん付き合うっていうのわね~好き同士の男女または同性が…」




「私はね、」




目をキラキラさせながら説明を始める麗の言葉を険しい表情の礼がさえぎる。






「幸太郎の事が…昔からずっと好きなの…!」




“ズキッ”




「そ、そ、そんな一般市民の感情なんて、梨々花は興味ないわよ。」




「…興味が無いならいいの。部外者は外から見ていてね。」




“ズキッ”




梨々花は心臓になにやら重いものを感じていた。






「じゃあ、私の用事はそれだけだから。」






そう言い残すと、礼は去っていった。




「…嵐みたいな子だったね…。」




「なに…この感じ…。」




「梨々花ちゃん、大丈夫?」




「なんであの子は梨々花に執着するのかしら…。」






(梨々花がかわいいから?目立つから?)






「梨々花ちゃんは、幸太郎君とあの礼って子が付き合ったらどうする?」




「…。」




「なんかモヤモヤする?」




はっ。




「なんで今わかったの?!」




「それって…属に言う…嫉妬なんじゃないの?」








嫉妬なんじゃないの?


嫉妬なんじゃないの?




嫉妬なんじゃないの?








麗に言われた言葉が脳内にループする。




嫉妬という感情は…とある恋愛小説で確認済みであった。






「これが…嫉妬?」






ふっ




ふふふっ




「ふふふふふ」




(梨々花ちゃんが…壊れた?!)






「日も落ちちゃったし…とりあえず今日は帰ろうか!!ねっ?!」






その後どのように家に帰ったかは梨々花の頭には残っていなかった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ピピピッピピピッ




「39℃…。」




“コンコン”




扉を開けたのは夏目家で主に梨々花の身の回りの世話をする桐であった。




「梨々花様、学校にはお休みの連絡を入れておきましたよ。」




「熱なんて…いつぶりかしら…。」




昨日、麗と別れてからずっと“嫉妬”というワードが頭にループをしており、


最終的には高熱を出す結果となっていた。


今日は大人しくベッドで休むことにしたのだった。






小学生ぶりかしら…


なんて自分の部屋の天井を眺めてため息が漏れる。






熱を出すとなんだか気持ちまで弱くなる…




「こんなタイミングでやめてほしい。」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






“バンッ”




勢いよく開けられた扉は生徒会室。


決められた人しか本来立ち入ることは許されないはずの部屋に、


一般女子高生はズカズカと侵入していく。




「おお!麗じゃないか。珍しいなここへ来るなんて。」




「朝から心臓に悪いわね…。麗。」




「真琴~ってあれ!華恋もいたのか!!」




そこには親友2人が揃っていた。


「華恋はもう時差ボケ大丈夫なの?」




コクリッとだけうなずく華恋は眠たそうな顔をしている。


彼女は両親の手伝い等でよく海外に行っており、学校へ来る期間は限られている。




親友の麗であっても学校で会うのはSレア級である。




一方、生徒会室のボスこと真琴は朝からピンピンしており、


朝だということを一切感じさせない笑顔を向けていた。






「そうだ聞いてよ!!!」




「ん?」「?」




「今日は梨々花ちゃん、休みなんだって~~私のせいかも…。」




「おお、梨々花が学校を休むことなんて珍しいな…。風邪か?」




「いや…ある意味、梨々花ちゃんにとっては不死の病かも…」




「なんか面白そうな話の匂いが…する…。」




真琴と華恋は意味深な麗の言葉に集中する。




「残念ながら私の口からは詳しく話せない!!」




こんなことを話したら梨々花ちゃんに殺されてしまう。と察した麗は


硬く口を結んだ。




「さては…こないだ情報を欲しがった男子生徒が関係しているのだろう!」




(勘が鋭い友人を持つと周りはつらいな~。)




「そんなお願いしたっけ?」






“へへへ”とかわいくとぼけて見せるが2人の表情は真っすぐで麗をじっと見つめた。




「名前も覚えているぞ。確か…5組の佐々木幸太郎君だったかな?」






「佐々木幸太郎…記憶したわ…。」






「そんな!幸太郎君は全然関係なくて!!!」




汗汗汗




麗の目は綺麗に泳いでいた。






「とにかく!変な散策はやめてね!!梨々花ちゃんに殺されちゃう!!」






「佐々木幸太郎君ね~。」「佐々木…幸太郎…」




「って!本題はそこじゃなくて!梨々花ちゃんの家にお見舞いに行こうよ~って話!」




「ああ。親友の大ピンチだ。もちろん行こうじゃないか!」




“コクリッ”




「じゃあ2人とも放課後に特別室3に集合ね~!!」




それだけ言い残すと麗は生徒会室から出ていった。




「…佐々木…幸太郎…」




「そうか。華恋は全然知らないもんな。佐々木君について。」




“コクリッ”






「どうも麗の反応上、梨々花の想い人らしい。」






「梨々花に…想い人?」




「すごいね。あの男はすべて滅びろって言っていた梨々花がね。私もびっくりしているよ。」




「…見てみたい…。」




「えっ?」




“グイッ”




「ちょっと、華恋?!私をどこへ連れていくのだ?!私にはまだ朝にやるべく仕事がな!」




真琴の言葉など耳を傾けず、華恋は真琴の腕を引っ張っていった。




「5組…佐々木…幸太郎…。」




「行くってことか?相変わらず、華恋は言葉数が少ないな~。」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「みて!!真琴様と華恋様よ!!」


「うわ~いつ見てもやっぱり2人とも美しいな」


「さすが四天王!!」






2人が5組へ向かっている廊下はザワザワと盛り上がっていた。




普段学校にはあまり顔を出さない華恋もいるため、より注目の的となった。






「華恋、ここが5組だよ。」




「華恋さん!真琴さん今日はどどどうしたんですか?」




廊下の近くにいた5組の生徒が緊張しつつ用件を聞いた。






「佐々木幸太郎とやらに用事があるのだけれど…。」






“ザワッ”




クラス中の視線が佐々木幸太郎へと向けられた。




「えっ?!」




初対面の組み合わせに幸太郎本人が一番戸惑っている。




「梨々花様や麗様に次いで華恋様達も佐々木君に用事だなんて…」


「華恋さんの表情が険しいな…きっとなんか悪いことしたんじゃないの?」


「佐々木君っていったい何者なの?!」






「おい、亮…あの2人誰だ…?!」




コソッと亮に耳打ちをする。




「え?!お前あの2人も知らないのかよ。四天王の残り2人だぞ?!」




「1人は顔を見たことがある気がする。」




「真琴さんが生徒会長だからだろ!もう一人は冬城華恋さんだ…幸太郎、やっかいな人に目をつけられたな…。」




「生徒会長に呼び出されるようなこと、なにもしていないんだが…。」




「けど、向こうは幸太郎にバリバリ用件があるみたいだぞ…。」




すっごいこっちを睨んでる…と亮は幸太郎の背後へと隠れる。






「あなた…佐々木幸太郎…?」




「はい…そうですけど。」






「昼休み。いつもの場所で待つ。1人で来れるかしら?」






いつもの場所にすぐ検討はついた“特別室3か…。”




「わかりました…。」






それだけ告げると2人は5組から嵐のごとく去っていったのであった。






「幸太郎…お前マジでなにした!?」




「いや…俺が聞きたい…。」




“キーンコーンカーンコーン”




そうしてチャイムとともに、


幸太郎の集中できない午前中の授業が始まったのであった。






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