第11話 episode:11

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「失礼します~!」


彼女は周りの視線を気にせずにクラスへと入ってきた。



「えっ?!麗ちゃん!俺たちの教室に用事?」


「ちょっとね~幸太郎君に用事があってね。」



亮の驚いた声に反応して俺も視線を向ける。


そこにはニコニコと笑顔を振りまいている女の子がいた。


「…どうも。」


「いきなりごめんね~幸太郎君。」


「俺に用ですか?」


「ちょっとね~耳貸してくれる?」


そういうとヒソヒソとした声で小さくつぶやいた。


“特別室3っていう教室知ってる?”


彼女はそういうとすごく楽しそうに話を続けた。


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特別室3とかかれた端っこに位置する教室。


普段は使用されることがなく、とある女子高校生たちのたまり場と化した教室がある。



この時間そこには1つ影があった。


“ガラッ”


「ごめん、遅くなりました。」


少し息を切らした男子高校生が扉をあけた。


「いえ、梨々花の方こそ。こんなところに呼び出して悪かったわね。」


梨々花は冷たい表情のまま口を開いた。


2人の時間がゆっくりと経過した。


「外を見ていたのか?」


梨々花の視線の先にはいろんな学生たちが話をしながら下校していた。


「なんとなく外を見ていただけよ。今日も1日疲れたな、とか思いながら。」


「お疲れ様。」


「…お疲れ様。そうだ用事っていうのは、これ。」


梨々花はそういうと1枚の手紙を差し出した。


「さちかに手紙…いつもありがとう。」


「梨々花も楽しいからいいの。」


手紙を受け取って、幸太郎は「フッ」っと笑った。


「かわいいな。」


“ガタッ”


梨々花は座っていた椅子から顔を真っ赤にして立ち上がった。


「かかかかかかわいい?!」


「あぁ、この封筒かわいいなって。」


「あっ、封筒ね!封筒ね!封筒の事ね!」



(かわいいなんて単語聞きなれたはずなのに、なんかびっくりした…。)


梨々花の心臓はドキドキと速く動きだした。


深呼吸をしながら再び椅子に座る。


(心臓…なんかマラソンを走った後みたいに速い…。)


「いいやつだな。」


「あっ!封筒ね!封筒がね!いや全然いいやつじゃないよ!ふつうだよ!」


「いや、今のは夏目さんがね。」


“ガタンッ”


梨々花は驚きのあまり椅子から転げ落ちたのであった。


「えっ!?大丈夫か?」


驚いた幸太郎が慌てて手を差し出す。



「だだだだだ大丈夫に決まってるじゃない!!」


梨々花は差し出された手を素直に受け取り立ち上がる。


手や顔が自分でわかるほど赤く熱くなっていた。


「なんか顔赤いけど、どこかに打った?」


「違う!これは…そう!昨日トマト食べ過ぎてね!ちょっと今日は赤いのよ!!」


そういって手を放す。


なんでこんな言い訳をしたのか、後から考えて梨々花にも意味が分からなかった。


(梨々花としたことが…こんな時に限って手汗が…。)


「夕日…」


「えっ?」


「ここからの夕日…すごくきれいだな。」


そう言った幸太郎の横顔に梨々花の心臓はさらに速くなるのであった。


「いつでも来ればいいわ。」


「けど、友達とのたまり場所なんだろ?」


「幸太郎君を今日から友達にしてあげるって言ってるの。」


「友達?」


梨々花はそっぽを向いて続けた。


「知り合いから、友達に昇格してあげるって言ってるの!」


「それは、ありがとう?」


急な昇格に戸惑う幸太郎をよそになにやら梨々花は考え込んでいた。


「呼び方も変えなくちゃね。梨々花は幸太郎君って呼ぶわ。」


幸太郎も考え込む。


(昇格すると呼び方も変わるシステムなのか…。)


「夏目ちゃんは馬鹿みたいだし…梨々花ちゃんはみんな呼んでいて友達感がないし…決めたわ。梨々花にしましょ。」


「?!」


幸太郎はいきなりの呼び捨てに戸惑う。

急に親族か大親友のような飛び級をした気分になった。


「それは…目立つんじゃないか?」


「もう決めたことだから!さぁ、遠慮なく呼んでみなさい!」


「…。」

急な無茶ぶりに対応できるスキルもなく、幸太郎の顔はみるみるうちに赤くなる。


「…プッ。あははは!照れすぎでしょ!顔真っ赤よ!」


「別に照れてるわけじゃない。」


「じゃあ早く呼んでみなさいよ~。」


一瞬2人は目が合い、時間が停まる。



「…梨々花。」


「えっ…。」


しばらく教室には時計の針の音だけが響く。


「梨々花、またなってるよ。」


「えっなにが…?」


「トマト病。」


梨々花の顔は先ほどにも増して赤くなっていたのであった。


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“バタンッ”


「梨々花様、学校お疲れ様です。」


「桐、待たせたわね。」


「梨々花様、なんだか顔が赤くないですか?」


「…ただのトマト病よ。」


「そうでしたか。」


桐は何かを察したかそれ以上は聞かずにただニコッと笑顔を向けた。


「今日の学校はいかがでしたか?」


「…疲れたけど、悪くはない1日だったわね。さちかちゃんにもこないだ選んだ便箋を使って手紙を書けたわ。」


「梨々花様、熱心に家にある便箋から選んでましたね。きっとさちか様もお喜びになると思いますよ。」


「そうだといいな…。また返事が来た時ようにうさぎの便箋を選ばなくちゃ。」


梨々花は楽しそうに答えた。



(梨々花様、なんだか最近は明るくなられたな。)



車は明るい話題のまま家路へと進んでいった。


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「さちか~迎え遅くなってごめんな。」


某幼稚園では、小さな幼稚園児が自分の荷物を準備していた。


「さっちゃんいい子だからしっかり待ってたよ!!」


さちかは、先生さようなら!と大きな声で挨拶をした。


幸太郎も先生に会釈だけしてさちかの荷物を預かった。



さちかの視線は幸太郎のバックへと向いており、

なにやら言葉を待っている。


視線に気が付き察したように幸太郎はバックから取り出す。


「もしかしてこれか?」



「お姉ちゃん、もうお返事書いてくれたの?!」


目をキラキラさせて、さちかは幸太郎から手紙を受け取る。


「みて!お兄ちゃん!お姉ちゃんからの手紙うさぎさんの紙だよ!」


すごくかわいいね!と何度も何度も見返す。


「お姉ちゃん、さっちゃんがうさぎ好きって知ってたのかな?」


「これを見たんじゃないか?」


さちかがいつも持っているバックを指さす。そこには大きなうさぎのアップリケが付いていた。


「そっか!お姉ちゃんすごいね!優しいね!」


「そうだないいやつだな。」


ニコッと笑うと幸太郎はさちかに手を差し出した。


「さちか、手紙を読むのは帰ったらな?」


うん!と大きく頷くと幸太郎の手を握る。


「お兄ちゃん、今日嬉しそうだし、なんだか顔が赤いね!」



「トマト病かな?」


「トマト病?!なにそれ~~!おいしそう!!」


「…秘密!さぁ早く帰ろ!お腹空いた!」


「え~お兄ちゃんが隠し事した~!」


そして佐々木兄妹は家路へと足を運んでいった。


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