第10話 episode:10
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「…ゆー君が他の女の人と話してる姿を…見たくないの…。あたしひどい事思うよね…。」
「伊織…気付くの遅すぎるよ…それはきっと嫉妬ってやつだよ。」
「嫉妬?!あたし…もしかしてそれって…」
ゆーくんが好きってこと??
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“ガタンッ!!!”
「…夏目さん、授業中にどうかしました?」
「いえ、少しボーッとしてしまいました…。すみません。」
「夏バテですか?」
「いえっ、大丈夫です。」
夏目梨々花は、授業中に退屈であり麗から借りた恋愛小説を読んでいた。
集中しすぎていたせいか主人公が自分の気持ちに気付いたとき、心臓が飛び跳ねて豪快に本を落としたのであった。
(本を読んでいたことがばれるところだったわ…。)
危ない危ないと安堵しながらも脈はいつもの倍速度であった。
(ついに主人公が自分の気持ちに気付いたじゃないの。続きが気になるわね…。)
しかし本は、主人公が気持ちに気付いたところで次の巻へと続いており、モヤモヤする結果となった。
丁度その時、授業が終了しニヤニヤと麗が梨々花へと近づいてきた。
「梨々花ちゃ~ん。随分真剣に読んでたね~!面白かった?」
「別に、暇だっただけよ。続きはあるの?」
「もうそろそろ発売の時期なんだけどね…まだ出てないの~!もしかして続きが気になる?」
「フッ…。そんなわけないでしょ。読み始めたからには結末を知りたいタイプなのよ。」
麗は、ため息まじりでつづけた。
「梨々花ちゃんは、こういうのを見ると恋がしたい…とか思わないの?」
“恋がしたい”というワードは梨々花の頭にぐるぐる回った。
「…答えはNoね。」
「?!」
麗は目を見開いて驚いた。
「即答するかと思ったのに…今ちょっと考えたよね?!」
「そんな細かい事は知らないわよ。そもそも恋なんてどんなものなのかも知らないわ。」
「だから本を貸してあげてるんじゃん~!」
ニコニコしながら麗は本をペラペラとめくった。
「梨々花ちゃん~ここの場面…ドキドキしたよね~!!主人公が嫉妬から気持ちに気付くとわ!」
「…麗、嫉妬なんてしたことないでしょ。」
「ないけど!きっとそのうちするもん!梨々花ちゃんはどうなのさ!」
「フッ。そんな低レベルな事、梨々花がするわけないでしょ。」
その時であった、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。
「幸太郎~移動教室一緒に行こうよ!!」
「おまえ…腕から離れろ、重い。」
「いいじゃ~ん!照れちゃってかわいいな~!」
幸太郎の腕にひっついて歩く礼の姿が見えた。
“バンッ”
梨々花は扉を勢いよく開けると笑顔で口を開いた。
「あら~幸太郎くん。今日はよく会うわね。」
チラッと礼を見ると
「あらっ。工藤礼さんあなたもいたの?」
「夏目梨々花ちゃん、名前覚えてくれたの~嬉しい。」
礼はニコッと返したが、目は明らかに笑ってはいなかった。
「梨々花、記憶力はいいの。」
「幸太郎、授業に遅れちゃうから早く行こうよ。」
礼が幸太郎をグイグイ引っ張る。
「ちょっと待って…幸太郎君。今日の夕方…時間があったら待ち合わせをしたいのだけれども。」
梨々花の急な誘いに周りがザワザワし始める。
ただ1人麗だけは目をキラキラさせていた。
幸太郎は礼の腕をひきはがし「わかった。放課後教室に行く。」と梨々花の耳元で囁いた。
そしてすぐに廊下を進んでいった。
「ちょっと!幸太郎待ってよ!」
その後を礼が追いかけていく。
夏目梨々花は廊下に1人突っ立っていた。
「梨々花ちゃん?大丈夫?」
麗に声をかけられ正気に戻る。
「えっ?!大丈夫に決まってるじゃない!!」
「だって梨々花ちゃん…」
“顔真っ赤だよ?”
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なぜこんなことになってしまった…。
周りからは驚くほどの視線とヒソヒソ話。
「梨々花ちゃん、大丈夫?」
麗はなんどもその質問を繰り返している。
授業は終わり随分と時間は経ったが、教室にはほとんどのクラスメイトが残っていた。
それ以上にクラスが違う生徒までもが集まってきていた。
皆の思考は1つ。
梨々花の放課後だ。
前代未聞な梨々花の発言は瞬く間に学校中へと噂が広まったのであった。
「この空気…なんなのよ。」
「すごい人だね…こんなことになるとわ…さすが梨々花ちゃん!」
麗も苦笑いをするしかなかった。
(ただ、さちかちゃんへの手紙を渡したかっただけなのに…。)
「そうだ!梨々花ちゃんいい考えがある!!」
「いい考え?」
耳貸して!と麗はヒソヒソと伝えた。
「…それ大丈夫かな?」
「任せといて!!」
「はぁ…わかった…その作戦で行くわ。」
梨々花は深くため息をつくと勢いよく立ち上がる。
そしてそのまま廊下へ出ていき走り去っていった。
「えっ?!梨々花ちゃんがどっか行っちゃったぞ?!」
「けどバックは残ってるし…トイレとかかな?」
(梨々花ちゃん!頑張れ!名付けて、梨々花ちゃん・幸太郎君密会大作戦~!)
その後、麗もゆっくりと立ち上がり人が集まった廊下を進んでいくのであった。
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