姉弟子追って、魔導学園へ

森尾友彬

プロローグ

序章  俺が魔導学園を選んだ理由

「ちょっと、リンフォン。私の散打に付き合いなさいよ」


 道場から抜け出そうとしていた俺の背に明るい声が刺さって、背を震わせる。

 振り返ると笑顔の紅髪の女の子が微笑んでいる。


 彼女の名は、

「ホンファ姉……」

 俺の通う八極門の道場の一つ上の姉弟子。この道場で彼女に勝てる者は数えるほどしかいない。そんな彼女がいつも散打の時間には俺を呼びつけるのだ。


「何よ辛気臭い顔をして、貴方は強くなりたくはないの?」


 俺は八極門に入門して一年ほどが経過していたが、最近入門した弟弟子にすら劣るのだ。それなのに、道場で雲の上の様な彼女が声を掛けるのだ。


「弱い者イジメは楽しい?」


 俺は常日頃から思っていた事を口にした。別に向上心が無い訳ではない。ただ、人よりも武術の才が劣っている事は理解している。それに人に対して拳を撃ち込むのに震えに襲われるくらいに苦手だった。


 ホンファ姉の顔がみるみる赤くなる。拳をわなわなと震わせて、真紅の瞳に涙を溜める。一瞬、彼女の瞳に炎が宿る錯覚を得た。


「あのね。女の子にやられても悔しくはないのね?」


 そこからは売り言葉に買い言葉。うまい具合にのせられ、散打をするのだ。


「動きが甘いわ。まだまだ私、本気じゃないのよ」


 浅い踏み出しから震脚に繋ぐ。

 踏み込んだ右足を俺の体の内側へ通す。裡門である。

 ホンファ姉が苦手な立ち回りなのだが、俺にはそれに対して対抗する術を持たない。


「ヒィィィッ!!」


 俺は差し込まれた右足に対して、崩すように左足を当てる。

 実際、これでは崩れないだろう。


 けれど、俺にはある考えがあった。それは前に倒れ込む。

 ただ、それだけ。


「なぁッ!?」


 ホンファ姉は頓狂な声を上げた。


 これで引き分けに持ち込める。そう、思った。


 しかし、結果は違った。


「その手には乗らないよ」


 倒れ込む俺の胸を右腕一本で支えられた。


 そして、そこから更に一歩を踏み込まれホンファ姉の背が現れつつあった。


 この流れは不味い。鉄山靠への自然な導入だ。

 ホンファ姉の左足の重心が右足に移動した。


 ドン。


 体が浮き上がる。


 が、手加減されていた様で背中から床に落ちた。


 涙が零れる。


「本気でやっていなわよ。泣くほど痛かったの?」


 俺は思わず駆け出した。


「リン君……」


 様子を見に来たのだろうか。シャオちゃんが扉の脇から覗いていた。


 俺はそれを無視して突っ走った。


 いつか、見返してやる。


 そして、書庫に眠っていたとある本と出会った。



 数年後、姉弟子のホンファ姉がマルタ魔導学園に入学した。

 俺も入学する事を決意した。

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