第50話 危険
「星也君からだよ。春樹出る?」
夏樹からのせっかくの嬉しい提案だが、俺は首を横に振った。
「さっきのやつが襲ってくるかもしれないだろ。俺が見張ってるからお前が出ろ」
「……分かった」
夏樹が星也からの連絡に出るのを確認してから、俺はあたりを見回した。
相変わらず攻撃してきたやつの姿は見えない。
見えないものから逃げるというのは難しいことだ。
「うん、うん……うん、え、それ本当⁉」
静かに星也の話を聞いていた夏樹が、突然大きな声を上げた。
何があったのか気になるが、会話中にそれを聞くのは気が引ける。
「ねえ、今どこにいるの? ……はあ、なんでそんな危険な道通るかな。すぐ行くから変に動かないで待ってて、といっても動けないと思うけど。うん、じゃあまた」
「……なにがあった?」
「まあ色々。とりあえずさっきから僕らを追ってきてる人を倒したちゃおう」
「え、そんな時間あるか?」
「時間はないけど、このまま行くと星也君達に迷惑がかかるから。さっきと言ってることが変わるけど、ごめん」
「なるほど。分かったよ」
と言っても、相手の姿が見えないんじゃあ攻撃のしようがない。
罠を張ったところで相手からはこちらの動きは見えているであろうから、すぐにバレてしまう。
どうしたものかと考えていると、夏樹がそっと耳元で話し始めた。
「もう一回、人気のないところに誘い込もう。そこでさくっと」
「誘い込むのはいいけど……さくっとできるかどうかは分かんねえぞ?」
「大丈夫。僕も援護するから。僕は操るのはできないけど、力が出せないってわけじゃないんだ」
「そういうことなら……」
俺の返事を聞き終わる前に、夏樹は走り出した。
俺は一瞬置いて行かれそうになるも、慌ててそれについていく。
そこから少し行ったところに、人気のない場所はあった。
「うおお……」
案の定、人気のないところに入った途端に、姿が見えないやつの攻撃が始まった。
少しくらいこの場所で、力の光だけがキラキラと光っている。
「じゃあ、俺やるよ」
「うん」
手に力を起こす。
意識を集中させると、手の中に黒い力が宿った。
「……これどこに向けて放てばいいんだ?」
「とりあえずその辺にやってみたら?」
「おう……」
言われて、何となくそいつがいる気がする方向に向けて力を放ってみる。
すると……、
「うわっ……マジかこれ」
「あー、ヤバいね」
俺の力があたったところが燃えていた。
夏樹は自分のカバンからペットボトルの水を取り出すと、ふたを開けてひょいと燃えているところに投げた。
ペットボトルまで燃えんだろうと思ったが、不思議なことにその火は消火された。
「春樹がやるのは危なそうだねー」
「だなー」
若干棒読みになりながら夏樹に応じる。
「やっぱり僕がやるしかないのかねえ。言っとくけど、本当に操るの下手だからね。危険だから春樹は僕の近くに来てて」
「ん? うん……」
言われた通り夏樹の傍による。
夏樹は目を閉じて、手に力を発生させた。
その様子を見る限りとても安定していて、操るのが苦手なようには見えない。
「とりゃあ!」
「……え」
少し馬鹿らしい掛け声とともに、馬鹿らしい夏樹が力を放つ。
「……えええええ」
その力は夏樹の手を離れると同時に360度全体に広がっていた。
「ね? 操るのは苦手なんだ」
「苦手ってレベルじゃねえぞこりゃ」
幸い普通の力だから建物が壊れたりということはないが、夏樹は人がいるところで力を使ってはいけない。
危ない。
「ぎゃあああああ!」
「……」
全方向に広がった夏樹の力が、犯人の所にも広がっていたのだろう。
犯人と思しき人の悲鳴が響き渡り、やがて消えた。
力の光が見えなくなるころにはその悲鳴も聞こえなくなり、俺たちめがけた力もなくなっていた。
「……一件落着だね」
「おう……」
「じゃあ行こっか!」
言って、夏樹は再び走り出した。
俺はその背中を追いかけながら言う。
「俺たちが助けに行ったところでかなり不利じゃねえか?」
「……」
「俺は燃やすから危ないし、夏樹は星也達まで攻撃しかねない! どうやって助ける?」
「考えながら走る! 大丈夫、何とかなるよ」
意外と考えがない夏樹の話を聞いて、俺は走りながら不安になるのだった。
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