第37話 自殺

 昼休み。夏樹さんに連れていかれた場所は、聖大公堂の屋上だった。

 よりによって屋上かよと思わないでもないが、ここは突っ込まないことにする。

「ねえ、春樹」

「何ですか」

 モグモグと焼きそばパンをほおばりながら話しかけてくる夏樹さんに、俺はあくまで冷たく接する。

「僕なんか色々話すみたいに言ったけどさあ、あれやっぱ無しにできない?」

「どういうことですか?」

「いやあ、何かね。僕のことを知ってほしいって思う気持ちは本当なんだけど、ほら、僕らってそこまでたくさん話したわけじゃないでしょ? よく知りもしない人の身の上話とか聞かされても興味持てないだろうし、覚えらんないと思うんだよね。仲良くなってから話した方が、その話に対する印象も変わると思うしさ?」

「はあ……。それはまあ、そうですね」

「だから今日はのんびり空でも見ながらくだらない話しようよ……」

「……」

 何を言うのかと思えばそんなことか。

 いやしかし、夏樹さんの言うことにも一理ある。

 俺の今の夏樹さんに対する情報と言えば、母さんから聞いた天才だったということと、想像していたような固い人ではなかったといったところだ。

「だめ?」

「……別にいいですけど」

「わあい」

「あ、でも、1つだけいいですか」

「何?」

 午前中の片づけ作業で疲れ切って眠そうな夏樹さんに、しかし俺は容赦なく質問を投げかける。

「夏樹さんって自殺したんですか」

「……どうして?」

「いや、言い方が気になっただけです。違ってたならすみません」

「あー、いや。正解も正解、大正解だよ」

「……」

「事故に見せかけた自殺ね。僕頭いいからそんなこともできちゃう。ま、僕を轢いた人には申し訳ないことしたけどさ」

「……何でですか?」

「え?」

「なんで自殺したんですか? 天才だって言われてて、不満なんてなかったでしょう? なのに、なんで自殺したんですか?」

「あー、それ聞いちゃう?」

「当たり前です」

 どこまでものんびりとした口調の夏樹さんに、少しだが腹がったってきた。

「えー。そういう話はあとからって言ったのにー。まあ、いっか。うん、じゃあ教えてあげるよ。僕が自殺した理由と、それに合わせて春樹に謝らないといけないこと、聞かせたげる」

 この後、夏樹さんの話を聞いた俺は、認めたくないけれど、やっぱり自分たちは兄弟なんだなと思わさせることになるのだった。

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