第38話 似た者同士

「作業してる時も言ったけどさ、僕は天才なんだよね。ああいや、だった、かな」

「そうらしいですね」

「今は天才じゃないんだけどね」

「どういうことですか?」

「だって僕の天才ぶりを発揮できるとこがないんだもん。生憎力を操るのは才能がなかったし。友達もいないしさ」

 ぱくり、焼きそばパンを一口かじる。

「力って運動と違うんですか? ほら、運動も天才的にできたらいしいじゃないですか」

 嫌味っぽく、鼻で笑いながらそう言った。

 だが、夏樹さんはそれをスルーして真面目なトーンで返してきた。

 全く、どんな反応が次に来るのかわからない。中々厄介なタイプの人だ。

「別に僕は運動が得意だったわけじゃないよ? 頑張ってただけ」

「頑張ってただけって……。頑張っても普通はそんなにできないですって」

「そうだね。だから死ぬ気で頑張った。母さんの過大評価と期待に応えるためにね」

「……」

「勉強はもともとできたから、勉強の時間を削ってスポーツを練習してたんだ。母さんが求めるものをこなせるように。おかげで毎日すごく疲れたよ」

「じゃあ、友達がいないっていうのは?」

「それについては資料庫で一回話は終わったじゃん。皆身構えたんだって。僕こう見えて意外と繊細だからさ、めっちゃ傷ついたんだよねー。仲いいと思ってたやつが、僕を利用するために近くにいたってこともあったし。本当、疲れる毎日だったよ」

 どう返したらいいのかわからず、静かな時間が流れた。

 その間に、夏樹さんの手の中にあった焼きそばパンはなくなっていた。

 こんな話をしているのに、よく食べられるよなと思わないでもないが、それは俺が突っ込むところではないだろう。

 代わりに別のことを質問させてもらうことにする。

「……聞きにくいこと、聞いてもいいですか」

「何かな。何でも教えるよ」

「自殺したのは本当に本当なんですか?」

「本当だよ。自殺した理由は……分かるよね?」

「まあ、はい」

「結局、兄弟そろって同じような理由で自殺したんだ。違いといえば天才だったか天才じゃなかったか」

「致命的じゃないですか」

「そう? 僕はそこより友達がいなかったっていう方が問題だと思うけどな。だって天才じゃなくても友達がいれば何とかなることだってあるし、毎日が楽しくなると思うんだ。けど僕たちは友達がいなかった。本音で話せる相手がどこにもいなかった。友達がいない理由はどうあれ、状況は一緒だよ」

「それは……」

「結局、似た者同士何だよ。僕たちは」

「……!」

 俺は言葉を失った。

 それと同時に、夏樹さんに親近感を覚えた。

 今まで、先に死んだ、天才とうたわれた兄を憎んでいたのだ。お前が死にさえしなければ俺が生まれることもなく、すべて平和だったのにと。

 けれど、話を聞けば、憎む要素なんてないじゃないか。

 むしろ俺たちはもっと一緒にいるべきなのではないかと思ってしまう。

「でも春樹にはいるよね。何でも話せる友達が」

「ああ……」

 恐らく星也のことを言いたいのだろう。

「何でも話せるっていうのは、ちょっと違うかもしれないです」

「そうなの?」

「まだそこまで行ってないっていうか、そこまでの途中というか……。お互いそうなりたいとは思ってる。でもうまくいかないんだ。それも、俺が、一方的に」

「……まあ、そういうのも経て仲良くなるんじゃない?」

「……説得力がないですね」

 にへらと笑って肩をすくめて見せると、夏樹さんも困ったように笑いながら小さなため息を吐いた。

「もう、聞きたいことはない?」

「はい。あとは、話しながら、ゆっくり、ゆっくり知っていこうと思います」

「そうして。じゃあ最後に1つだけ。春樹にお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「内容によりますけど、何ですか?」

 きっと、何でも話せる仲になろうとか、今からでも遅くない、兄弟らしくなろうとか、友達になろうとか、そのたぐいのお願いだろうと俺は思った。

「あのね、春樹」

 その予想は間違ってはいなかったけれど、意図的には同じようなことだったけれど、俺の想像の範疇を超えていた。

「僕と……」

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