第23話 お兄ちゃん

 先日、だらけるなら自分の部屋でやれとシンジロウさんに言われたのに、俺たちは今日も懲りずにシンジロウさんの部屋でだらけている。

「お前らなあ……もういいよ。すきなだけいてくれ」

「やった! シンジロウさんから許可下りたよ!」

「だね!」

「やったな!」

 なんて喜んで騒ぐ時間が終わると。

「暇だねえ」

 すぐに暇な時間がやってくる。外は危なくて出れないから、こうして部屋にとどまるしかないのだ。

「ねえ春樹、面白いことない?」

「俺に聞かれてもなあ……」

「何かドカーンとした事でも起きればいいのに」

「実際起きたら面倒なこと言うな」

 確かに面白いことはあってほしいが、ドカーンとした事はもうたくさんだ。

 これ以上フェイトディザスタア前に問題を起こしたくない。

 加恋も本心は同じだったようで「今の撤回するー」と言っている。

 しかし、でも。言ってしまった事実は変わらない。

 つまり、何が言いたいのかというと。

 ドカーンとした事が、起きてしまったのだ。

「失礼する!」

 部屋の扉が大きく開いて、二十代かその一歩手前くらいの男性が入ってきた。

「ちょ、シンジロウさん、部屋の鍵閉めてなかったの?」

「お前らが開けて入ってきたんだろうが。ちゃんと閉めて来いよ」

 俺たちがそんなことを言っている間にも、その男性はどんどん部屋の中に入ってくる。

 そして、加恋の前でぴたりと止まった。

「会いたかったぞ、加恋」

「……」

「やはりここにいたのか。噂は本当だったということだな」

 男性は1人で大きく口を開けて笑った。

 その間、俺たちはコソコソと事実を確認し合う。

「え、誰あの人。シンジロウさん知ってる?」

「知らねえよ。つか加恋に用があるんだろあいつ。加恋、あいつ誰だ」

「あ……私の、お兄ちゃん」

「なんだそうなんだ! 悪い人じゃないんだ?」

「お兄ちゃんって言っても、血はつながってない……。お母さんの、連れ子」

「あー……そういうやつ」

 俺たちが若干気まずい空気になっていると、加恋が聞き捨てならないことを言った。

「無理……殺されるかも……」

「は、何で?」

「お兄ちゃんの趣味は、動物を殺すことだった。たまに私にも暴力をふるってきて……。まさか死んでたなんて」

「マジかよ」

「うん」

 俺たちが一通り話し終えると、加恋の兄ちゃんの笑いも収まった。

 そして加恋にずいっと近寄って、

「なあ、加恋。俺今すげえストレス溜まってんだわ。発散、付き合ってくれよ」

「嫌……」

「あ? 何だって? 聞こえねえな。ああ、そこのお友達も一緒がいいのか。でもごめんな、俺男をいたぶるのは趣味じゃねえんだよ」

 変態だ。俺たちの認識が一致した。

 今俺たちがすべきことは、変態から加恋を守ること。

「せっかくこんな世界にいるんだ、力を使わないわけにゃいかねえよな? なあに、殺しはしねえよ。ちょっと死にかけるくらいやるだけだから」

 そう言って、強い力で嫌がる加恋を立たせると、無理やり引きずって外に出ようとした。

 俺と星也はまだ力を使ってはいけない。

 頼りになるのはシンジロウさんだけ。そしてそのシンジロウさんが、力をためて放とうとしたとき。

「ダメ!」

「な、加恋、何言って……」

「殺しちゃダメ! お兄ちゃんはこんなだけど、優しいところもあるから……!」

「加恋、それは多分、思う存分お前を痛めつけるための演技だぞ」

「そんなんじゃないから! 殺しちゃ、ダメ」

 加恋にそう言われてしまうと、なかなかやりにくいものである。

 結果、シンジロウさんが迷った一瞬の間に、加恋は連れ去られてしまった。

 俺はすぐに後を追うべく部屋から出たが、驚くことに、もうそこに2人の姿はなかった。

「どうする……?」

「助けるしかないだろうね。でも、どこにいるか分からない」

 俺たちはいったん部屋に戻って、輪になって座った。

 作戦を練るためだ。

「あいつ、加恋のことどうやって見つけたんだ?」

「噂、って言ってた」

「噂ねえ……。俺たちもそうするか……?」

「食堂にいる人に聞いたり?」

「ああ。噂っていうよりは聞き込み調査?」

「無謀じゃないかな?」

「うーん……」

 俺と星也が相談していると、今まで黙っていたシンジロウさんが口を開いた。

「やってみる価値はあるんじゃねえか? それに、そうするしかない気もする。食堂に行くのは階段だ」

「は? 階段って、時間かかるよ?」

「だが、各階にいるかもしれねえ奴らに聞くこともできる。あと、お前ら、加恋の部屋がどこにあるのかわかるか?」

 シンジロウさんの問いかけに、星也が返事をした。

「前に、場所だけなら聞いたことある……」

「よし。じゃあ加恋の部屋にも寄ってくぞ。そうと決まったらさっさと行動する。行くぞ!」

 シンジロウさんの掛け声を合図に、俺たちは聞き込み調査を始めた。

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