第22話 和解

 あれから、かなり時間が流れた。

 人を殺すような人も減って、特に大きな問題も起きず、久しぶりに平和がやってきたようだ。

 しかし、あの騒動は実際にあったこと。そして俺とアランの戦いも噂になているようで。

 住民たちの不安が取り除かれることはなく、みんな自分の部屋にこもっているのが現状だ。

 俺たちも当然、外には出ていない。シンジロウさんの部屋に行くのが今の日課だ。

 そして加恋も、練習を再開した星也も、力を十分に使いこなせるようにいなっている。

 つまり、今俺たちがどうなっているのかというと。

「あー! 暇だよ!」

「だねえ。なんか面白いことないかなあ」

 暇を、持て余していた。

 俺はまだあのことを星也に話していない。

 状況が落ち着いてきたから話そうかとも思ったのだが、こうも平和な日が続くと、それを壊してしまうようでなかなか話を切り出せないのだ。

「ねえ、春樹君」

「ん? ああ、そうだな。暇だな」

「はあああ」

 ぐでーんと床に寝転がる十代3名。

 そこにシンジロウさんがやってきた。

「おいこらお前ら、だらけるなら自分の部屋でやれってんだ。ほら、行ったいった!」

 ベシ、とシンジロウさんにおしりを叩かれる。

「ひどい! お父さんにもぶたれたことないのに!」

 なんて言う加恋を引き連れて、俺らはシンジロウさんの部屋を出ることにした。

 加恋は階が違うので、エレベーターで自分の部屋に戻っていった。

 これは、あのことを話す絶好のチャンスかもしれない。

「ねえ星也」

「んー?」

「俺の部屋に来ない?」

 星也は、少し迷ってから返事をした。

「行く。僕何気に春樹君の部屋に入るの初めてな気がするー!」

「ああ、そういえばそうだね」

 軽く話をするだけの時間で、俺の部屋に着くほどシンジロウさんの部屋との距離が近い。

 ほら、もう部屋に着いた。

「お邪魔しまーす」

「どうぞどうぞ」

 うきうきとした足取りで、星也が部屋に入っていく。

「わあ! ザ・男子の部屋って感じだね!」

「それ褒めてるの?」

「半分くらいは」

「おい。まあ適当に座ってよ」

「うん」

 2人が座ったところで、さっそく俺は本題に入った。

「星也、俺、話さなきゃいけないことがあるんだ」

「……うん」

 俺の雰囲気が変わったのが分かったのか、星也も真剣に俺に向き合ってくれる。

「前に、星也が起きたら、俺が変なこと言ったことあったでしょ?」

「ああ、あったね」

「実は、星也は覚えてないけど、あの前にね……」

 俺は、あったこと全てを話した。

 必要以上に星也を傷つけてしまわないように、言葉の選択を慎重にしながら。

 俺が話している間、星也は静かに話を聞いてくれていた。

 そして、俺が話し終わった後、開口一番にこう言ったのだ。

「やっと、話してくれたね」

「は……?」

「ごめん。僕そのこと覚えてたんだ」

「はあ……?」

 突然の星也の告白に、戸惑いを隠せない。

「覚えてたんだけど、覚えてないふりしてた。ごめんね」

「え、何でそんなことを?」

「春樹君が話してくれるか知りたかったんだ。何でも話せる仲になりたいって、僕前に言ったじゃん? 僕が覚えてなくても、春樹君は話してくれるのかなあって思って」

「……」

 なんだそれ。

 いや、悪い意味じゃなくて、正直な気持ちがそれだった。俺の今までの悩みはいったい何だったのだろうか。

「ごめんって」

「いやまあ別にいいんだけど……」

「そう? ま、僕としては春樹君が話してくれたから嬉しいよ」

「そう……」

 そこで俺は思い出した。

 話そうと決めたのは俺が話したかったからではなく、シンジロウさんに言われて決めたことを。

 これも言った方がいいのだろうか?

 俺が黙り込んでいると、星也が何やら察した様子で話しかけてきた。

「あー、もしかしてシンジロウさんに言われた感じ?」

「うん……」

「それでもいいよ。だって、最終的に言おうって決めたのは春樹君でしょ?」

「まあね」

「だったらいいよ」

「そっか」

「うん」

 今日で、完全とはいかないけれど、星也との関係が修復した気がした。

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