第20話 目覚めても
俺は自分の部屋で、ぼんやりと時間を過ごしていた。
星也の目が覚めないのに、なんで傍にいてやらないんだと思うだろう。
違うんだ。だからこそ、俺は自分の部屋にいるんだ。
星也の傍にいても、俺はきっと泣くだけ。
星也の為にできることは何もなくて、むしろ星也に悪影響を与えかねない。
だったら、気持ちの整理をつけるのも兼ねて、自分の部屋でおとなしくしていた方がいいだろう。
そういうわけで、俺は自分の部屋にいる。
あれから、もう2日が経っている。
星也はまだ、目を覚ましていない。
「はあ……」
特にやることもないので、制服のポケットに入れっぱなしになっていたスマホを取り出して、メッセージの記録を見る。
相変わらず、楽しさのかけらもないやり取りがそこに記されていた。
「俺、自殺でもしたのかな」
死んだとき以外の記憶はある。
その記憶によると、俺は特に何のとりえもない、平凡なやつだった。
まあ、平凡よりいささかしたな気もするけれど。
それに加えて、この会話。まるで俺が自殺するのを止めるかのようなメッセージが届いている。
メッセージアプリを閉じて、ソシャゲを開く。
久しぶりにネット対戦でもしようかと思ったが、それができるわけもなく。
生きている人との対戦なんてもうできないのだ。
いよいよやることがなくなった俺は、そのままベッドにダイブした。
やることがないもの問題だ。
何もしていないと、すぐに星也のことを考えてしまう。そして胸が苦しくなるのだ。
このまま寝てしまおう。
そう思って瞼を閉じたとき。
俺の部屋の扉が大きく開いた。
「春樹! 今すぐ来て!」
「なんだよ加恋。1人にしてくれよ」
加恋は俺の言葉を無視して続けた。
「星也が起きたの!」
「何だって⁉」
「星也が起きたの! 早く来て‼」
「ああ。今すぐ行く!」
俺は駆けだした。
シンジロウさんの部屋がすぐ近くでよかった。あっという間に星也の所に駆けつけることができる。
「星也っ」
俺は急いでシンジロウさんの部屋の扉を開けて、星也のもとへ駆け寄った。
ぽかんと驚いた顔をしている星也がそこにいる。
「春樹君?」
「うん、そうだよ。星也、よかった……。本当に、ごめん……」
星也は何が起こっているのか理解できないという顔で、ただただ驚いている。
「春樹君? 何の話をしてるの?」
「え? だって、俺が星也をアランから守れなかったから……」
「アラン? アランと会ったのはあの会議室でだけでしょ?」
「え……?」
戸惑う俺に、シンジロウさんが声をかけた。
「星也は、問題の時間のことを覚えていない。話すか話さないかは春樹しだいだ」
「……!」
覚えていないということは、あの時俺が星也に言ってしまった言葉も、星也が身体にダメージを受けたということも、今の星也は知らないということだ。
「ねえ、さっきから何の話してるの?」
星也が純粋に尋ねてくる。
「本当に覚えてないの?」
「何の話か知らないけど……え、今までずっと練習してたよね?」
「覚えて、無いんだね」
「うん?」
なるほど、確かにこうなってしまえば、俺が話すか話さないかで大きく状況が変わってくる。
もちろんあったことを話した方がよいのだろうけれど、それは大きなリスクを伴う。
星也は今、俺が言った言葉を覚えていない。
なのに、俺がそれを話すことによって、また傷ついてしまうことになる。
なら、その部分の出来事を変えて話せばよいのではないだろうか?
いやダメだ。それは少し違う気がする。
そして自分がアランの攻撃で気を失っていたということを知ったら、受けるダメージはそこそこ大きいものだろう。
これは、言わない方がいいだろう。
「春樹君?」
「あ、何?」
すっかり自分の世界に入ってしまっていた俺は、星也に呼ばれたことで戻ってきた。
「練習しようよ」
「うん。あー、いや。俺はいいかな」
どうして? と星也が首を傾げた。
「力を出せるようになるには、練習あるのみだよ?」
「うーん。そうなんだけど……」
どうしたものだろうか。
しばし考えて、少しだけいいアイディアを思い浮かべる。
「俺、星也が寝てる間に力出せたんだよ。まあ色々あっていい感じの力を。で、また色々ありまして、それを使うのは危ないから、フェイトディザスタアまでは練習を控えようという話になり……」
「んーと。随分ふんわりした説明であんまり伝わってこなかったけど、練習はしないってこと?」
「そういうこと」
「そうなんだ……」
今の俺の話し方で、シンジロウさんと加恋も、俺が話さないことにしたことを察したらしい。フォローに入ってくれた。
「ま、そういうことだからさ。春樹は練習しないんよ。そこで! 私の練習見ててくれない? アドバイスほしいし」
「え、僕も練習したいんだけど……」
「星也はもう十分だ。一度中断して加恋の練習に付き合ってやれ」
「う、うーん。わかった」
星也は納得していな様子だけど、そうするのが一番いい。
シンジロウさんが言いたいことは、おそらく、星也はまだ本調子じゃないから休め的なことなのだろう。
「そうと決まれば、早く練習しなきゃね! 星也、行こう!」
「あ、うん」
星也が加恋に背中を押されて、部屋の奥へと入っていく。
俺もそれに続こうとするも、シンジロウさんに呼び止められてしまった。
「春樹、ちょっとこっちこい。これからのことについて考えをそろえておきたい」
「あ、はい……」
俺は、シンジロウさんとともに、部屋を後にした。
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