第百四十四譚 革命の戦争、開始


 王都トゥルニカと同じように、外壁で囲まれているキテラ王国。

 外壁の内部には、それぞれ東、西、南、北に一ヶ所ずつ兵士たちの詰め所があるらしく、外部からの侵入者に対して早急に対応できるようになっているとのことだ。


 俺たちは、その中で最も王城に近いという西の外壁にある詰め所に身を潜め、作戦の最終確認を行っていた。


「まず、先行隊である第一、第二部隊が経路の確保。第三、第四は国民の避難などの指示。その他の部隊で陽動。異存ある者はいないな?」


 ロベルトの最終確認に、その場にいる各部隊の隊長格が力強く頷く。


「……よし、ではこれより解放作戦を開始する。皆、必ず生きてキテラ王国の明日の光を見よう。全員、配置に着け!」


 その号令により、隊長格の兵士たちは静かに持ち場に向かって行った。


 今回、ロベルトのもとに集まった兵士はおよそ五千人。

 皆が現在の王政について不満を持つ者たちだ。


 対して、今現在国に残っている国王側の兵士の数はおよそ一万人。

 その殆どが王の意に従う者たち――そう思っていたが、他の兵士たちに話を聞いてみたところ、どうやら家族を人質にとられて下手に動けない兵士たちが多数いるそうだ。

 さらに、兵士たちの中には奴隷も多くいるそうで、逆らうことに恐怖心を抱いてる者も大勢いるらしい。


 だから、実際に戦う兵士の数は、一万人を大きく下回る事になるはずだ。

 

「アルヴェリオ君」


 話を終えたロベルトが、俺のもとに駆け寄ってくる。


「キミには予定通り、俺と共に特殊部隊として行動してもらうけど、構わないね?」

「ああ、問題ないぞ。俺も数十人で動くのとか好きじゃないしな」


 昔から数十人単位での行動が苦手だった俺にとっては、少数での作戦はやりやすい。


「プルメリアさんも問題ないよな?」

「問題ない」


 端の方で腕を組みながら立っているプルメリアさんが小さく頷く。

 しかし、一人だけロベルトに異議を申し立てた。


「あたしゃパスだよ」


 シルヴィアの婆さんは、面倒そうな表情で言った。

 その言葉に、ロベルトは見るからに残念そうな顔をして頷いた。


「……そうですか。しかし仕方ありません。共に戦ってもらおうと考えていたこと自体軽率でしたから」

「何言ってんだい。あたしゃ先行隊がいいって話をしようとしただけさね」

「え、はっ? いやしかし、先行隊は危険です! シルヴィア殿がわざわざ行かずとも――!」

「うるさい男だね! あたしゃ先行隊がいいんだよ! その方が多く戦えんだろ!?」


 王子相手に怯むどころか、むしろ相手を怯えさせる白の魔女。

 魔女と呼ばれる意味が、ほんの少しわかった気がした。


「わ、わかりました。ではシルヴィア殿は先行隊として、経路の確保をお願いします」


 頭を下げたロベルトを背に、婆さんは一人先行隊のもとへ向かって行った。


 残された俺とロベルト、プルメリアさんの三人は、先行隊の後ろに位置づき、その時を待つ。

 

 ロベルトは小さく深呼吸をすると、耳に手を当てて声を出した。


「絶対に国民には傷を付けるな、兵士もできるだけ殺さないように戦ってほしい。晒していいのは――王の首ただ一つ! 行くぞ、作戦開始!」


 通信魔法具により、ロベルトの声は各隊長たちの耳に届く。

 その証拠に、詰め所の外から大きな爆発音が聞こえてきた。


 これが第二の作戦開始の合図だ。


 先行隊が動き出し、詰め所の奥に進んでいく。


「まずは詰め所の奥から外壁内部に侵入。外壁二階に上がって中央廊下を通って王城内に侵入し、国王の寝室まで行けば作戦は終わるはず。無駄な犠牲を出さないためにも、早急に作戦を完了させないといけないんだ」

「わかってる。とにかく急げばいいんだろ?」

「速さには自信がある。任せておけ」

「二人とも頼もしい限りだ、ありがとう」


 王城に侵入するための中央廊下は、西と東の二つのみ。

 第一部隊と第二部隊は外壁二階で二手に分かれ、西と東から同時に攻め入る。


 俺たちは西側の中央廊下を渡り、先行隊と共に上を目指す手筈となっている。


「陽動部隊が兵士と交戦し始めたみたいだ。少し予定より早いけど、多分大丈夫だろう」


 ロベルトのもとに通信が入ったのか、俺たちに戦況を伝えてくれた。


 確かに、俺が予想していた時間よりだいぶ早いな。

 もしかしたら相手方はロベルトたちの襲撃が今日だってことがわかっているのかもしれないぞ。


 外壁二階に上がる階段を上っている際中、二階から叫び声と金属と金属がぶつかる音が聴こえてきた。


「いたぞ、叛逆者たちだ!」

「もうなのか!?」


 ロベルトが少し焦り気味に声を荒げる。

 その時、俺たちの後方からも大勢の足音が響いて聴こえてきた。


 やっぱり、俺たちはまんまとハメられたわけだ。


 明かりと足音が徐々に近づいてくる。

 俺は合図を送るため、プルメリアさんの肩を軽く叩く。

 一瞬、プルメリアさんが小さく跳ねた気がするが、気にせずにジェスチャーを送った。


 プルメリアさんは何故か俺を睨んでいたが、合図を理解してくれたようで、後方から近づいてくる兵士たち目掛けて俺たちは同時に跳び出した。


「は……?」


 突然現れた二人の侵入者に、兵士たちは言葉を失っていたようだった。

 

 一閃。

 俺とプルメリアさんの一撃が、最前列の兵士たちを複数吹き飛ばした。

 その光景を見ていた兵士たちは、口を開けたまま侵入者である俺たちを見ていた。


 俺は鞘に入れたままの長剣を肩に乗せ、兵士たちの前に立ち塞がった。


「流石プルメリアさん、息ピッタリだったよ」

「人間。次に体に触れたらあの世に送る」

「ちょっと待ってそんなに罪重いの?」

「話はあと。今は目の前の敵を倒すぞ」

「……はいはい!」


 目の前に立ち塞がった二人の侵入者に、兵士たちの表情は曇っていった。


「すぐに片づけるぞ、プルメリアさん!」

「了解。任せろ」


 俺たちは凄まじい速さで、兵士たちを次々となぎ倒していった。

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