第八十二譚 大人げない二人


 第三試合が終わり、武闘大会は一回戦最後となる第四試合が行われようとしていた。


 真っ暗だった空も徐々に明るさを取り戻し、日の出の時間が近づいて来ていた。


「この時間帯が一番キツイな……」


 俺はソファーにだらしなくもたれ掛かる。


 基本的に、こういった朝になりかけの時間帯が一番くる。

 ここぞとばかりに睡魔が俺を眠りへ誘おうとするんだ。


 できるだけ体力は使いたくない状況で睡魔と戦う事により、無駄な体力を持っていかれる。

 寝てしまえばいいだけの話なのだが、寝起きの体というものは思った以上に動いてくれないもので、目覚めたら次の試合まで残り数分――となったら最後だ。


「アルっち、寝たら負けだよ!」

「お前は獣人の血が流れてるから良いよなぁ……!」


 獣人族という種族は、基本的に眠るという行為をしない。

 眠らずとも生きていけるのだ。


 彼らにとって睡眠とは、何気なくひなたぼっこしたり、とりあえず数分目を瞑る――という感覚でしかない。


「だけど半分しか流れてないから、わたしだって眠くなるんだよ? だから変わらない!」

「いや半分流れてる時点で変わるだろうが」


 もう少し耐えればアザレアたちの試合なんだ。

 それを見るまでは絶対に眠れない。


『ご来場の皆様! たいッへん長らくお待たせいたしました! 次の試合が一回戦最後の試合となります! 選手の方は入場お願いします!!』


 実況者の呼び声で入場口から出てきたのはグループDトップ通過のアザレアたち。

 対するはグループCにて奮闘してみせたグリンファーとサイル。


 グリンファーたちの戦い方は可もなく不可もなく――つまり特徴がない。

 個々の力も他の選手と同等だし、ペアとしての力も他と同等。


 と、まあアザレアたちが負ける要素一つもない相手との試合なわけだが。


『それではサクッと始めましょう! 一回戦第四試合、『グラジ―&アザレー』ペア対『グリンファー&サイル』ペア! 試合開始ですッ!!』

『ぶっ飛びなさい! “暴風ストーム”!』


 試合開始の合図と同時に無詠唱で放たれるアザレアの魔法に、グリンファーたちは為すすべなく宙へと舞い上がる。

 そんなグリンファーたちの落下地点に待機しているのはジオ。


 半分ほど落下してきた瞬間に跳びあがり、グリンファーたちをそのまま蹴飛ばした。


『場外!! 試合終了です! 準決勝進出は『グラジ―&アザレー』ペア!!』

「……あいつら本当に大人げないな」

「ちょっと可哀想だったよね、グリンファーたち……」


 アザレアとジオはまたもやドヤ顔で拳を天に掲げると、そのまま退場していった。


「……よし、次は準決勝――俺たちの番だな」

「う、うん……! 頑張ろうね、アルっち!」

「あんまり緊張するなよ? 大丈夫、俺たちなら勝てるさ」

「……そうだよね! アルっちとわたしが組めば敵はいないよね!」

「いやそれはどうだろうな?」

「そこはそうだねっていう場面だよー! もう!」


 そんな会話を続けながら、俺たちは入場口へ向かって行った。






□■□■□






 日の光が闘技場内を優しく照らす。

 魔法光筒を消しても問題なく見えるほどに明るくなった空。


 この恵まれた天気の中、実況者の声が場内に響く。


『すっかり朝です!! さあ、朝の試合一発目! 準決勝第一試合――これより開始です! ではまず『ゴルモー&デナテッサ』ペア、入場お願いします!!』


 北の入場口から現れたのは、大きな歓声を浴びながら嬉しそうに歩くゴルモーたち。


『このペアは出場二回目! 前大会は惜しくも予選敗退となってしまいましたが、今大会では前回王者のペアを敗り、見事準決勝進出を果たしました! 私としてはゴルモー選手にもう一度あのガッツを見せてほしいものです!!』


 その言葉に、歓声がより大きなものへと変わる。

 この大会でほぼ無名だったゴルモーの株は急上昇した事だろう。

 

『続いて、『アルヴェリオ&シャール』ペア、入場お願いします!!』


 俺はシャッティの方を向き、手を上げる。

 それに気づいたシャッティも、軽く手を上げた。


「行くぞ、シャッティ!」

「うん! 行こう!」


 俺たちは互いの手のひらを合わせるように叩き、入場していく。


『注目ペアの一角! 今までの汚名が嘘のような活躍を見せるシャール選手に、初出場のアルヴェリオ選手! 今大会のダークホースは間違いなくアルヴェリオ選手でしょう!!』


 先程のゴルモーたちに負けないぐらいの歓声が響き渡る。


 俺たちはその歓声に応えるよう手を上げながらゴルモーたちに近づく。

 ゴルモーたちの真正面に立った俺たちは、互いに挨拶を交わす。


「ゴルモーです、いい試合にしましょう」

「デナテッサ。よろしく頼む」

「アルヴェリオだ、こちらこそよろしくな」

「シャールだよ、よろしくね」


 俺たちは挨拶を交わしたのち、互いの指定位置まで戻る。


 舞台の端と端に分かれた俺たちは、静かにその時を待った。


『では、参りましょう! 決勝進出はどちらのペアか!? 準決勝第一試合――始めッ!!』


 その言葉と同時に、俺たちは互いに走り出した。

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