第六十八譚 ペア
あの魔の握手から数分、俺はシャッティと共に談笑を続けていた。
どこからやって来て、何のために冒険をしているのか、冒険中にどんなことがあったのだとか、ほぼ質問攻めだったんだけどな。
質問には軽く答えておいた。
王都トゥルニカからやって来て、聖王を倒す為に冒険して、色々な事があったと。
どうやらシャッティは冒険に憧れているらしく、いつかは他の大陸に行って冒険してみたいという。
「――と、まあ神殿内を攻略したのが最近で、そのままここにやって来たってわけだ」
「うわぁ……! 凄いなぁ……! だってアルっちの四倍もあるゴーレムよりもさらに大きいんでしょ!? 想像しただけでワクワクするよ!」
目を輝かせながら俺の話を真剣に聞くシャッティは、本当に嬉しそうだった。
「そんなに冒険したいなら冒険しに行けばいいだろ?」
俺がそう問いかけると、シャッティは突然に元気がなくなった。
シャッティは俺から視線を外し、バツが悪そうに目線を下にやる。
「……え、っとね? それは出来ないんだぁ」
「何か理由が――ある、よな。なかったら冒険してるだろうし」
「うん……わたしのお母さんはね、物心ついた時には死んじゃってたんだ。だからずっとお父さんが一人で育ててくれてたの」
シャッティは、昔の事を懐かしむように語り始めた。
店主も気を利かせてくれたのか、店を一時的に閉めてくれている。
「でも、お父さんも二年前に死んじゃってね? 死因は事故死。仕掛けた爆弾が暴発して死んじゃったんだ」
俺は黙って彼女の話に耳を傾ける。
シャッティは時折笑顔を見せて平気そうにしているけど、どう見たって無理してるようにしか見えない。
「それでね、死んだお父さんと一つ約束をしてたの。『お父さんを超える』って」
「超える……?」
「実はね、お父さんは武闘大会で一度だけ準優勝したことがあるの。だから、武闘大会で優勝してお父さんを超すって約束をしたんだ」
「それで優勝するまではここを離れないって事か……」
「でも、まだ一度も本選に出た事がないんだけどね……」
そう言葉にしたシャッティは、バツが悪そうに笑う。
武闘大会には、予選と本選があり、予選を勝ち抜いた上位八組が本選に出場できる。
出場者が多いこの大会で本選に出場するのは難しく、運と実力の両方を備える奴だけが本選に出場できるとアザレアは言っていた。
さらに、武闘大会は二人一組というタッグ戦のため、パートナーとの連携も大事になってくる。
一人では勝てない大会なんだ。
「今年も参加しようと思ってるんだけどね、まだ相手も見つからなくて」
「そっか……」
俺は少しだけ考える。
ここにやって来たのは、武闘大会で優勝する為。その目的を達成させることが絶対。
俺達としても絶対に負けられない。
……とはいえ、この話を聞いた俺がシャッティに勝たせてやりたいと思ってるのも事実だ。
船を優先させるか、人助けを優先するか。
二つに一つだ。
これを両方達成させることは無理――いや、待て。
そうだ。いけるじゃないか、この方法なら。
船も人助けも両方達成できる方法が一つあったじゃないか。
「――なら俺と組んで出ないか?」
俺はシャッティと眼を合わせて言った。
シャッティは俺の言葉に驚いたのか、二つの耳をぴんと立てる。
「えっ……? わたしと組んでくれるの?」
「ああ、ここまで話を聞いて黙ってられる人間じゃないからな」
俺とシャッティが組んで武闘大会で優勝する事。
それこそが、最善の方法だ。
「あ、いや、無理にとは言わないけど」
「ううん! そんな事無いよ! むしろわたしからお願いしたいぐらいだから……!」
そう言葉にしたシャッティは、先程までの無理な笑顔なんかじゃなく、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
「アルっち、ありがとう……!」
俺はそれに答えるように、シャッティの目の前に手を差し出す。
「よろしくな!」
「うん! よろしく!」
俺とシャッティは互いの手を取り、力強く握手をかわした。
武闘大会はきっと熱戦が繰り広げられるだろう。
それでも、俺達なら大丈夫だという謎の安心感があった。
絶対に優勝して、シャッティの願いを叶えて船も手に入れてみせるさ。
「ところで、武闘大会の参加締切日っていつなんだ?」
「今日の日没までだよ?」
「なるほどね、了解了解」
俺は店の中から外の様子を眺める。
外は若干薄暗くなり始めていた。
「お前それ先に言ってくれない!?」
「あはは! アルっちは面白いねー!」
「のんきなこと言ってる場合じゃねえからな!?」
先行きが不安です。
□■□■□
「はい、参加受付完了です。明日の予選、頑張ってくださいね」
「ど、どうも……!」
俺は息を切らしながら受付員の言葉に答える。
肩で息をして、呼吸を徐々に整えていく。
「間に合ったね、アルっち!」
「ああ、なんとかな……」
シャッティと武闘大会に出るという約束をした後、店を飛び出して大会会場に足を運んでいた。
全速力で走ったためか、まだ日没まで余裕があるぐらいの時間に着くことができた。
一応、通信魔法具でセレーネたちにも伝え、受付するように話しておいた。
まあ、俺がもうペアを決めて受付した事でちょっと揉めたが、セレーネがなんとかその場を制してくれたので助かった。
「……よ、よし。あとは宿を探すだけだ」
「アルっち、宿を探してるの?」
「ああ、泊まる場所が無くてな。探し歩いてたんだけど全然見つからなくてさ……」
「ならわたしの家においでよ!」
「……え、いいのか?」
シャッティは俺の問いに笑顔で答えると、手招きで案内を始めてくれた。
宿、確保。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます