第六十二譚 神殿攻略③
過去の遺産である遺跡は、二つのタイプに分けることが出来る。
一つは、何の変哲もない普通の遺跡で、昔の歴史や財宝が眠っていたりするタイプ。
もう一つは、珍しい財宝や大発見となるような歴史が眠っていて、最深部まで到達されるごとに敵が強くなるタイプ。
つまり、翡翠の神殿は後者のタイプだ。
「おいおい……嘘だろ……」
俺は思わず声を漏らす。
「これは……凄いね」
「ど、どうされたのですか……?」
俺達の反応を見たセレーネは、恐る恐る訪ねてきた。
「いや、なんというか……変わったなって……」
俺はその問いに簡潔に答えた。
俺達は遂に最深部まで到達し、あと数十メートル先には指輪がある。
しかし、その指輪を護る“
守護神とは以前にも戦ったことはあるんだが、現在のとはまるで違う。
先程戦ったゴーレムよりもはるかに大きく、動きもあまり鈍そうじゃない。
背には天輪のような物が浮かんでいて、ゆっくりと回っている。
五十年以上前、俺達が初めてここに訪れた際は、こんな守護神いなかった。
あの頃は、先程のゴーレムの様な大きさで、あんまり強くはなかったんだけど……今はもう確実に強い。断言できる。
だって天輪付いてるのって大体強いよね!
「前のやつと大して変わらないわよ。それより、ここって大分広いから魔法ぶっ放しちゃってもいいわよね?」
アザレアの問いかけはほぼ脅迫の様なもので、いいって言わなきゃ殺すとでも言わんばかりの鋭い眼光で俺を睨んでくる。
無論、そんな目で言われたら俺も黙ってられない。
「やっちゃってくだされ!!」
ほら、黙ってられなかった。
まあ、アザレアが高威力の魔法ぶっ放して勝てるんなら一石二鳥だ。
アイツの機嫌良くなる、守護神倒せる。俺たち幸せ。
まさにウィンウィン。
これほど最高な事はない。
「やった! さあ、ぶちかますわよーっ!!」
アザレアは目を輝かせながら短杖を構える。
「……アザレアさんは昔からああいう方なのですか?」
「特に魔物をボコボコにできる時はあんな感じだな」
今までで一番ひどかったのは魔王城に突っ込んだ時だろうか。
あの時は、入り口前に魔物達の大群が待ち構えていたんだけど、アザレアはお構いなしに笑いながら突っ込んでいったのは記憶に新しい。
本当に嬉しそうに突っ込んでいくもんだから、うちの狂犬大丈夫かなって感じで見守ってたっけ。
寧ろ魔物の心配をするぐらいにはヤバいテンションだった。
「先手必勝! “
アザレアが短杖を掲げると、頭上から炎の大きな塊が守護神目掛けて飛んでいく。
俺達は武器を構え、戦闘開始の瞬間を待った。
「――開始だ!!」
炎の塊が守護神に当たる瞬間、俺は開始の号令を掛けた。
ジオと俺はそれぞれ別サイドに走り出し、左側と右側に別れる。
アザレアの魔法をもろに喰らった守護神は、上半身から黒い煙を出しながら静止している。
その隙を逃さずに、俺は足首の関節部分を狙う。
図体が大きい分、関節部分の隙間も大きくなる。だからこそ、動きを止めている今がチャンスなんだ。
「もう一度同じのを喰らわせるから、少しだけ時間を貰うわ!」
「いや、俺的にはそれ以外の魔法で攻撃し続けてくれてるほうが楽なんだけど!」
「はい、もう詠唱入りまーす!」
「この野郎!!」
守護神から少し離れた場所で詠唱を開始したアザレア。
正直、動きを止めている今の内にダメージを蓄積させておきたいんだけど……。
でもまあ、そこはアイツの判断に任せよう。
俺は今できる事を精一杯やるだけだ。
「アル様! もうじき動き出しそうです!」
「わかった! セレーネは回復魔法の準備を頼む!」
できる限り関節部分にダメージを与える。
そうすれば、足首に蓄積されたダメージのせいで体を支えられなくなるはずだ。
その時こそ、一斉攻撃のチャンス。
両足に負荷がかかればなお良しだ。
「左への攻撃、きます!!」
セレーネの合図より数秒後、守護神の左腕がジオめがけて振り下ろされる。
ジオは振り下ろされた瞬間、左腕に飛び乗り、そのまま腕を駆け上がっていく。
「アルヴェリオ! 左足首にかなりの傷を負わせておいたよ! でもまだ足りないと思うからあとはよろしく!」
「任せとけ!」
俺は長剣を振る速度を速める。
できるだけ早く負荷を溜めて、アザレアの魔法を受けた時に立っていられないようにしておきたい。
「準備できたわ!」
「もう少しだけ待ってくれ! 左側の負荷を溜める!」
俺は右足首にとどめの突きを放つと、すぐさま左足首に攻撃を開始した。
「一応僕には当てないようにしてね!」
「アル様っ! 後ろです!」
焦りの混じった声が響く。
俺はすぐに後ろを振り向くと、守護神の右足が俺目がけて突っ込んできていた。
咄嗟に左足を飛び越えるように避けるが、地面を蹴りあげられたことで石の破片が飛び散り、俺の右腕に勢いよくぶつかる。
「セレン!!」
「う……だ、大丈夫です……」
アザレアの心配そうな声が聞こえてくる。
セレーネの方を向くと、先程の破片が当たったらしく、左足の腿から血を流していた。
「セレーネ!? 今すぐ回復しろ!」
「リヴァ! 早くアタシに魔法を!」
「……もう少し、もう少しだけ待ってくれ! あと五秒でいい!」
俺の言葉に、アザレアは小さく頷く。
五秒。
それだけあれば充分すぎるぐらいだ。
「五!」
俺は長剣を構え、左の足首に狙いを定める。
「四――!」
そのまま一気に斬り込み、一撃、また一撃と関節部分にダメージを与えていく。
「……しゅ、守護神が……!」
途中で石に引っ掛かろうとも気にせずに斬る。
俺は最後の最後まで手を抜かずに長剣を振るった。
「一!」
「倒れます……!」
俺はバックステップで避けるように跳び、守護神から離れた。
ジオも軽快なステップで腕から飛び降り、アザレアの魔法に備える。
「いくわよ! “
アザレアの言葉と共に、守護神目掛けて炎の塊が落ちていく。
その塊は守護神の頭に当たって爆発する。
その衝撃に耐え切れず、守護神は地面へと崩れ落ちた。
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