第五十九譚 翡翠の神殿
王都トゥルニカより遥か南西。
“トゥルニエルの剣”と呼ばれるその名の通りの尖った形状をしている場所に、とある神殿がある。
その神殿は“翡翠の神殿”という太古の昔から存在する謎の建造物だ。
書物などで時代を遡って見ても、その神殿が記されていない時期なんてない。
今は遺跡と呼んだ方が正しいのだろう。
神殿内は、とても昔の技術では造れないような構造をしていて、大分発展してきている今でさえ、それ以上のものどころか同じものを造るのは困難だという話だ。
つまり、オーパーツ。
いつ造られたのか、どうやってこれを造ったのか。謎多き太古の遺産、それが“翡翠の神殿”なんだ。
そんな神殿の奥深くには、『翡翠の指輪』という翡翠に輝く指輪がある。
その指輪もまた、太古の技術では到底造る事が出来ないようなオーパーツだ。
翡翠の指輪は、翡翠石と呼ばれる貴重な鉱物からできており、現代の最高鍛冶職人でさえその鉱物を加工することは極めて難しいと聞く。
それ程の物が綺麗に指輪として加工されているのは、何とも不思議な事だ。
そんな指輪を手に入れる為、俺達四人は馬に乗り十と三日かけて“翡翠の神殿”に辿り着いていた。
「いつ見ても凄いものだね、ここは……」
ジオが神殿を眺めながら言葉を発する。
それに釣られて俺も声を漏らした。
「ああ、昔の奴等はどうやってこれを造ったんだろうな……」
「初めて翡翠の神殿を目にしましたが、これは想像以上です……。まさかこのような物が遥か昔に造られていたなど……」
セレーネが驚くのも無理はない。
この神殿を初めて目にした奴は絶対にそうだ。
この“翡翠の神殿”、外見は普通の神殿なんだ。いや、寧ろ今現在の普通基準の神殿を太古に造れている時点でおかしいんだが。
しかし、驚くのはそこじゃない。
この神殿、近づけば近づくほど――光るんだ。翡翠色に、きらきらと。
遠目からだと、ただの小汚い古い遺跡のように見えるが、近づくと翡翠色に光る。
今の技術でなら光らせることは可能だろう。
でも、距離を計算して光らせることなんて不可能だ。
「こんなに凄い技術が現代に受け継がれてないのは不自然だよね」
「しかし、行き過ぎた技術は破滅を及ぼす等という言葉もあります。この技術を悪用されないために、受け継がせなかったのではないでしょうか?」
確かに、セレーネが言った事も間違ってはいないと思う。
でも、どうして昔の奴らはこんな神殿造ったのか。
この神殿は指輪を護るための物だけど、そうなると太古の昔から魔族との戦いがあったって事なのか?
そもそもこんな神殿造らずとも戦えたんじゃないのか?
もしかして、昔の奴らは何かを伝えたかったのか?
「そんな難しい話なんかしないでさっさと行きましょ」
「頭が弱いアザレアさんがああ言ってるようだし、さっさと行くか」
「頭弱くないわよっ!」
俺達は馬から降りて神殿内へと足を踏み入れた。
神殿に入るとすぐに、壁一面の大きな壁画を目にする。
その壁画には大きな絵と、小さな文字が描かれている。
そこには、大きな黒丸を見上げる人々が描かれ、「空浮かびし大黒点、日を喰らい陰を生み出す」と書かれている。
以前もここを訪れた際、この壁画を見たけど何もわからなかった。
この壁画が何を意味するのか、何を伝えようとしてるのかよくわからない。
「……何度見ても不気味ね、この絵……」
「はい……何故かわかりませんが、凄く嫌な気分になります……」
確かに不気味だ。
黒丸を見上げる人々の表情が怯えているのか怒っているのか、はたまた笑っているのかさえわからない。
それがもの凄く不気味に思える。
「……これってもしかして月食の事じゃないかな?」
ジオが思いだしたかのように言葉を発する。
「月食……? 確かに言われてみればそんな感じするかも……」
月食。
日本でも度々聞いた事のある現象だ。
地球の影が月にかかる事によって、月が欠けて見える現象。その名の通り、月が食べられているかのような現象の事だ。
この世界でも、月食などは起こるらしく、書物でもそれらしきものを読んだことがある。
でも何だろう。それだけとは思えないんだ。
確かに、昔の人にとって月食は恐怖だったかもしれない。
でも、そんな一瞬の事でこんな壁画を残すか?
「いや、多分それだけじゃないと思う。昔の奴らは、何か伝えたかったんだ。それが何かは正直分からないけど、月食の事なんかじゃない」
「はい……。私もそう思います。きっと何らかの真実が隠されていると……」
「確かにそうだね……。これほどの技術を持った彼等が月食なんかに怯えるわけがないしね」
そう、俺が感じてた違和感はそれなんだ。
こんなにも高度な文明を発展させていた昔の奴らが、月食について何も知らないなんてことはなかったはずなんだ。
だから、この壁画に――後世に残る遺産に、月食の事を描くだろうか。
否。俺だったら、いや、俺じゃなくともそんな事はしない。
別の何か。俺達に対するメッセージが隠されているはずなんだ。
「こんな気味悪いところにいないで、早く進みましょうよ」
「……それもそうだな」
今考えても仕方がないか。
まあ、メッセージがわかったところで聖王には関係なさそうだしな。
「じゃあ最短距離で最深部に向かうか!」
「一度来た事のある方々と共にいるのは心強いですね」
「さあ! アンタらアタシに着いてきなさい!」
アザレアが自信ありげに先頭に立つ。
でも、俺達は知っている。
「アザレアは僕達について来るようにね~」
「何でよ!?」
「お前先に行かせると迷うだろ。それにトラップにいつも引っかかるし」
「アタシ信用されてないの!?」
「少なくとも探索では」
「焼くわよ!!」
こんな会話を続けながら、俺達は先へと進んでいった。
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