第五十六譚 エルフィリムの現状報告


「国王陛下ァァァァ!!?」


 大臣の叫びが謁見の間に響く。

 俺はテッちゃんを蹴り飛ばした後、格好良く着地を決めた。


「アル様!?」

「リヴァ!?」


 セレーネとアザレアが悲鳴をあげる。


「テッちゃん、俺は怒ってるんだよ」

「え、いや、リヴァっち?」


 俺はテッちゃんのもとに歩み寄ると、懐から小さい耳当てを取り出した。


「これ、通信魔法具って言うんだけど知ってる?」


 懐から取り出したのは、アザレアが持って来た通信魔法具の一つだ。

 持って来たというよりは盗んできたという方が近い。


「いや、知っているも何も、余はそれを使って各国と通信していたのじゃが……」

「そう、各国と通信できるんだよな、これ」


 俺はテッちゃんに微笑みかける。


「俺が言いたい事、なんだかわかる?」

「…………」


 俺の問に、テッちゃんは厳しい表情で頭を抱える。


 それから数秒後、テッちゃんは何かを思いだしたように、人差し指を俺に向けた。


「通信魔法具教えてなかった」

「正解だよバカ野郎!!」


 完全に忘れてたんだなコイツ。

 ちくしょう、この国の王じゃなきゃ殴り飛ばしてたぞ。

 ……いや、もうドロップキックしてる時点でアウトじゃないか?


「それがあるなら、各国と連絡取り合って現状把握できるよな!? わざわざ俺達を向かわせる必要なかったよな!?」

「いや、リヴァっちはそういうの関係無――」

「問答無用!」

「理不尽な!!」


 俺はテッちゃんを軽く平手打ちする。

 勿論、軽くだ。嘘ついてないよ?


「結果的には良かったと思うぜ? 向こうに行かなければ発見できなかった事だってたくさんあったわけだし」


 そう、結果は良かったんだ。


 行かなかったらエンデミアン一族の事も、幻術魔法も、聖王軍の襲撃も、ジオ達の事もわからなかったわけだし。

 ただ、通信魔法具ってのが存在して、これで各国と連絡とってたけど不安だから見て来てってのは言ってほしかった。


 だってそっちの方が気持ち楽になるじゃんか。


「せめて教えてくれたって良かったじゃんか!?」

「いやだからリヴァっち――」

「デストロイ!」

「話聞け!!」


 俺はテッちゃんに二度目の平手打ちを喰らわせた。






□■□■□






「こほん……して、エルフィリムの現状はどうだったのじゃ?」


 あれから数分、俺は仲間達に説得されて通信魔法具の話は終わった。


 俺としてはもう少し説明が欲しかったんだけど、これ以上やると仲間達に大変危険な事をされそうなので止めた。 


「まあ、エルフィリム自体は問題なかったぞ。ちゃんとここに証人もいる」

「証人とな?」


 俺は後ろに並ぶ二人の王族を指さす。

 

 その二人の王族は、テッちゃんの前に礼儀正しく座り、自己の紹介を始めた。


「お初にお目にかかります。エルフィリム第一王子、グラジオラス・フェル・フィオレンティアと申します」

「第一王女、アザレア・フェル・フィオレンティアです」

「なんと……! エルフィリムの王子殿下に王女殿下であったか!」


 ジオ達の紹介に、テッちゃんは驚きながら言葉を発する。

 やっぱり、顔が知られてないってのは本当だったんだな。各国の王族にも知られていないなんて相当過保護だったんだろうな、あの女王……。


「先程の言葉通り、エルフィリム自体の被害はほとんどありません。しかし、兵士達の被害が少々」


 ジオが真剣な表情で現状を報告する。

 その報告にテッちゃんは小さく呟いた。


「聖王軍の襲撃、か……」


 ここ、王都トゥルニカが八皇竜に襲われた日、エルフィリムも同様に襲われていたわけだが、その時の被害は少ないらしい。

 だが、数日前の襲撃。

 それによって、兵士達の被害が多く出てしまったんだ。


「はい。既に女王陛下から報告されているとは思いますが、聖王は本格的に動き始めたようです」

「うむ、まさか数万もの野生の魔物を操る事ができるとはな……」

「さらにもう一つ……」


 ジオは一呼吸おいて、話を続けた。


「聖王は人間も従えています」

「なんと……!」


 テッちゃんは思わず席を立った。

 どうやら、エルフィリムの女王からは聞かされていなかったらしい。


 俺も最初は目を疑った。

 ずっと、聖王は魔物しか従えてないと思っていたからだ。

 多分、他の人々もそうだろう。

 

 聖王は人々の敵であり、戦うべき相手でもある。

 そんな奴に従う者など誰も居ないと思い込んでいたんだ。

 

 でも、実際は違う。

 元いた世界でもあったように、世界には善と悪の人間がいるわけで、誰しもが同じ意見な訳がないんだ。

 善がいれば悪もいる。その二つに別れるのは当然なんだ。


「それは強制されているという事か?」

「いえ、そのような感じは一切しませんでした。催眠術で操られている事も無いと思います」

「馬鹿な……。今は全種族が力を合わせねばならぬ時なのだぞ……」


 テッちゃんの言う通りだ。

 本来力を合わせるべき仲間と戦うのは避けたい。

 こういう時だからこそ、全員の力を――心を合わせなきゃいけない。


 きっと、聖王は世界を征服した後、魔族以外の種族を皆殺しするはずだ。

 皆殺しはしなくても、俺達が幸せになる事なんてない。


 それが降伏した相手だろうとなかろうと。


「例え同種族でも、俺は戦うぞ」

「リヴァっち……」

「できれば、俺だって同じ人間同士戦いたくない。だけど、俺達には俺達の。彼らには彼らの正義がある」


 正義というのは一つじゃない。

 その人の立場によって、その人の正義というものは変わるんだ。


 どれが悪でどれが正義だなんて、俺にはわからない。

 

 だから、俺は俺の正義を貫き通す。

 俺の正義は、大切な人達を守る事。支えてくれる人達を守る事。勇者として人々を助ける事。


 後悔しないで精一杯戦う事。


 こっち側にとっての勇者は俺だけど、聖王側の勇者は聖王だ。


 勇者対勇者なんて燃えるじゃんか……。

 ああ、やってやるさ。

 一人でも多くの者を救い、立ちふさがる奴は斬る。


 勝負だ、聖王。

 俺とお前、どっちの正義が強いか。どっちの想いが強いのか、な。 

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