ガイジ的短編集

菩薩@太子

或る実験

 ポルノ映画をみた帰り、セブンイレブンで女物のパンティを買った。下宿に帰ると彼はシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、ブリーフを脱ぎ捨てて全裸になった。そしていま買ったばかりのパンティをはいてみた。骨細でふくよかな彼の身体には、女物のパンティがよく似合うようだった。

 次に彼は箪笥の引き出しからカミソリを取り出すと、それから刃をはずして姿見の前に立った。彼は緊張した面持ちで、その刃をパンティと腰の境目のあたりにそっと当ててみた。食い入るような眼つきで彼は、カミソリの刃をあてがった腰のあたりを凝視していた。

 彼の脳裏には、先ほどみたポルノ映画の1シーンが映し出されていた。それは豊満な女性が数人の男たちに強姦されるシーンである!!女は激しく抵抗するものの、ついには地べたに押さえつけられ、衣服をはぎ獲られ、そうしてパンティ1枚の姿になるのだった。男たちの一人がカミソリの刃を取り出して、それを女の腰の側面に押し当てて、真一文字にスーッと引いた。女の臀部からパンティがパラリと剥がれ落ちた。ポルノ映画でお馴染みのシーンであった。

 しかし彼は、このシーンから深い洞察を勝ち得たのである!!

「腰に密着したパンティをカミソリで引けば、パンティだけが切れるのはおかしいのではないだろうか?」

「やはりその下にある皮膚組織にも多少は影響があるはずで、少しくらい血が出なければおかしいのではないだろうか?」

「人間の皮膚というものは、腰に密着したパンティをカミソリの刃で引いても、血が出ないような仕組みになっているものなのだろうか?」

 彼の論理は一分の隙もなく展開した。

「すると…自分の臀部からも血が出ない仕組みになる!!」

 彼はやっとこのジレンマを合理的思惟によって解決したようであった。あとはそれを実験によって実証してみればよかった。

 彼は恐る恐るカミソリの刃をパンティと臀部の皮膚の境目あたりに当て、食い入るようにその一点を見つめながら生唾を飲み込んだ。

 やがて彼は「えいっ!!」というかけ声とともにその刃を真一文字に引き下ろした。

 微妙な激痛が走った。皮膚が切れたような、切れなかったような…そんな感触だった。

 彼は血走った眼で自分の臀部を覗き込んだ。彼の臀部には白い筋ができていた。だが血は出ていないようであった。彼は皮膚に密着したパンティをカミソリの刃で引いても血が出るほど切れない人間の皮膚というものに涙が出るような栄光を感じ、思わず飛び上がって万歳三唱した。

 その瞬間、表皮と真皮の間をかろうじて繋ぎ止めていた薄い膜が破れて、血がゴボゴボと流れ出したのである。彼は冗談でも見るような目付きで、自分の臀部を凝視しているのだった。

「じゃあ…ポルノ女優の場合はどうなるんだ!?」

彼のその姿は、何となく惨めさを誘うものではあった。

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