Peace by Death~死を持ち、生を守る~

男二九 利九男

プロローグ 死を超えし者

 ―――燃え盛る炎の中、一人の琵琶びわ法師が平家物語の一説を読み上げていた。どうしてそんな事をしているのか、それを問う者はもういない。何故ならば、その場にいた者達は焼け死に、あるいは切り殺され、あるいは自害し、生き残ったのは琵琶法師ただ一人・・・。


 それでも尚、法師は歌い続ける。何事もなかったかのように・・・。彼は、恐らく抗っている。何に?それは、分からない。ただ、分かることは彼は諦めてなどいない。この世の全てのものは、滅びたとしても形を変えて再生すると、そう信じている。まるで、狂信的な信者のように・・・。只、信じている。


祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声、諸行無常の響きあり。』


“祇園精舎の鐘の音、それは輪廻を意味する。”


沙羅双樹さらそうじゅの花の色、盛者必衰の理をあらはす。』


“どんなものも、沙羅双樹のように散っていく。”


おごれる人も久からず、只春の夜の夢の如し。』


“力持つ人間も、何時かは夢のように散っていく。”


たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前のちりにおなじ。』


“結局、風に吹かれる塵の様に全ては無意味に終わる。されどーーー。”



ーーー命は、転生する繰り返す



 何故か俺の頭の中でその言葉が響いた。(誰だ・・・?)俺は、トラックにねられた。全身の骨が折れてしまったのだろうか?全く動かない・・・。「・・・!?・・・!」俺を撥ねた張本人は、駆け寄って何か言っているが耳には入ってこない。普通は、痛みの余り悲鳴をあげる所だろう。だが、その声を上げる喉は潰れ空気が抜ける感覚があるのみだった。


『・・・死を・・・超え・・・よ・・・。』


 そんな状況なのに痛みは全く感じない。いや、こんな状況だからだろうか?(俺、死ぬのかな・・・?)という、最近の小説のようなありきたりな言葉が浮かんだ。小説ならば、転生するだろうが現実なので有り得ないだろうな。視界も霧がかかった様にかすみ始めた。不思議な事に死に対する恐怖は一切なかった。


『貴・・・様・・・に・・・生を・・・。』


 (うるさいな・・・。)この声は、神様なのだろうか?神様も暇なものだ・・・。こんな、やる気のないニートを助けてくれるのだからな。でも、すみませんね。神様。俺は、もう生きる気力さえないんだよ。・・・て言っても、只の幻聴だろうから返事は返ってこないだろうけど。あーあ・・・、ちゃんと勉強しておけば良かったな・・・。そうしたら、良い会社に務めて良い女と結婚して良い人生を送れたかもしれないのにな・・・。


『ならば・・・与えよ・・・う・・・。』


 (やっぱりな・・・。そりゃそうだよな・・・。)ん?今、何て?“ならば、与えよう”って・・・。何を与えるんだ?まさか、本当に神様?脳に直接って奴なのか?・・・・返事がないな。やっぱり、気のせいか・・・。ていうか、死ぬ間際ってこんなに物思いにふけれるものなのか?でも、もう時間がきたようだ・・・。凄く・・・眠い・・・。目の・・・前・・・が・・・暗く・・・。


『繰り返す力をーーー。』

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