転生したら90歳のジジイって酷くね?〜異世界を夢見て〜

横浜暇人

第1話異世界

[夢は叶わないらしい……]

そう気付かされたのは30代も半ばに贅肉ぜいにく若干じゃっかんお腹に乗った頃だった。

多くの子供達と同じようにプロのスポーツ選手に成りたかった。

中学生の頃、プロの試合を観て『アレなら俺にも成れるな』と思いあがっていた。

高校に入り部活漬けの毎日だった。努力の甲斐あって確かに実力は付いた。

だが!プロに成るには人脈が必要だった。下世話な言い方をすれば[コネ]だ。

[実力]と[人脈]俺は片方しか努力していなかった。



夢は破れ……今は肉体労働に汗を流す日々だ。



この日も労働に勤しんで帰宅した。

玄関で鞄を降ろし安全靴を脱いでいると、クラッと目眩めまいがして視界が狭くなった。


(あ、コレはヤバイな)


現世に留まる気力も体力も残されていなかった。

そのまま気が遠のく……。

身体が浮き上がる感覚を覚えた。

何か光の玉がこちらをジッと視ている様だ。





……気が付くと知らない部屋に居た。

見知らぬ天井。見知らぬ壁、シンプルだが悪くないデザインの部屋だ。

顔に手を当てると白いひげに触れた。

起き上がって部屋の中を見渡した。縦に細長い鏡を見付けた。姿見すがたみだ。

姿見すがたみを覗き込むと老人の姿がそこにあった。

『わぁ!!』後ろを振り返るも誰も居ない。


社会人になって10年は過ぎて、ふと家で鏡を見た時に白髪を見付けたり、目の下のくぼみや、新しいシワを見付けた時の(俺も年を食ったなぁ〜)を10倍にした気分だ。

この時ほど、鏡の存在を恨んだ事は無いだろう。


どうやら過労で死んで転生したらしい。

顎髭あごひげの長い険しい表情の老人に成っていた。

まるで、おとぎ話の魔法使いか神様さまのようだ。



辺りを見回すと幾つか石板が置かれている。

石版には文字が彫られている。


何々?【歴史は繰り返す】

【未来人は現在に影響できないが、過去人は現代に影響がある】

??不思議だ読める。


日本語なのか脳内で勝手に翻訳されているのか??


他にも【事実は小説よりも崎なり】だと。

ん?「き」は奇妙とか奇跡とかの「奇」じゃないのか??

【愉しむ事が肝要だ】とも書かれた石版があった。


まぁ、どれも大した事は書いてないな。


部屋にある出窓を開いてみると、そこには異世界が広がっていた。


七色の虹色の空と、何か緑色の物体が浮かんでいる。

驚いて家を飛び出した。


空は、はっきりした虹色では無いが優しげな光だ。

家の周りにはマリモの大きいのが幾つも浮かんでいる。

家の周りには地面が無く、どうやら家を支えている土地だけが浮いている様だ。


鼻腔にめいいっぱい空気を吸い込んで深呼吸をした。

気候がカラッとしていて気持ちが良い。


ここは何処だろう?


ふと見ると下へ降りるガラスの階段がある。

少し躊躇ちゅうちょしたがらちがあかないので、恐る恐る降りてみる決意をした。

近くに落ちていた木の棒を拾って、軽く階段を叩きながら降りた。

(石橋を叩いて渡る……誰かに見られたら恥ずかしいな)顔が紅くなる。

周囲を見渡したが誰も居なくてホッとした。


古くて傾いた朱色の台形の門を潜ると、そこは西洋の街並みが広がっていた。

まるで中世に来たかの様だ。建物の装飾品のデザインが素敵で、白壁の家が立ち並ぶ優雅な街並み。

排ガスの無い澄んだ空気、最高だな。


人の姿もチラホラ見掛ける。服装も中世だな。

街中に至る所に噴水があるのを見掛けた。

その水は飲めるらしく、瓶に水を容れている人も居た。


大通りに出た。


「あ、神さまだ!」若い男


いきなり声を掛けられたかと思うと若い男がいきなり土下座して崇めてきた。

「へへ〜、へへ〜」若い男

『やめて、恥ずい』

周りの男達もそれにならって土下座してきた。悪ノリ全開、満面の笑顔だ。

後ろの方で女性達が呆れた様な表情をしている。


急に取り囲まれて

「何処から来たの?」

「魔法は使えるの?」

「何してるの?」

と矢継ぎ早に質問責めにあった。


『に、日本から』

ドッ!爆笑が起こった。


「ま、魔法は使えるの?」

『使えない』ドッ!またも爆笑。

「つ、使えないの?」「そのナリで?あはははは」


「年齢は?歳は?歳はなんぼなの?」

『30代半ばぐらいかな』仙

ドッ!「ずいぶん老けてるな!」「わははは」


何を言っても爆笑する人達だな。


「何処に行くの?」

『何処に行こうかな?決めてない』

「じゃあ決まりだな」0

わっしょい!わっしょい!

皆に担ぎ上げられて強引に酒場まで連れて行かれた。


店員に挨拶された「今晩は」

辺りはすっかり暗くなっていた。


キョロキョロしていると

「忘れ物ですか?」と店員に聞かれた。

『そうではないんですが何か見た事があるお店で」

ブフッ!店員が噴き出した。お前も笑うんか。

「立ち飲みバー[モッツォ]へようこそ」店員


連れて来た男達が奢ってくれるみたいだ。

透明なサイダーの様なシュワシュワした飲み物が

ビールグラスに注がれて出てきた。

喉は乾いていないので手を付けず、おつまみの豆類をポリポリ食べた。美味いな。

少し空腹が満たされると、しっかりした食事が食べたくなった。


『お肉は無いのか?』と聞いてみた。

「あ〜、あるにはあるけど食べてみるかい?」


注文してくれた。


五分後、出てきたお肉は何故かゼリー状のブヨブヨした肉もどきだった。

フォークに刺して一口食べる。不味い。うぇ。

ドッ!「ははは!食えたもんじゃないだろう」「あはは、食ったー!」



どうやらこの世界でのお肉は超不味まずいらしい。



「城壁の外には新鮮な肉があるんだけどな、、、」何やら意味有り気の事を口にした。


「何だ何だ!呑んでないじゃないか、代わりに呑んでやるよ」

横から知らないマッチョな男が奢って貰ったサイダーっぽい飲み物を一気に飲んだ。


「か〜!うめぇ。喉ごしがたまらん!」

どうやら透明なだけでビールだったのか。勿体無もったいない事をしたな。



元居た世界とはだいぶ違うらしい。



周りの男達は身長は低いけど筋肉隆々りゅうりゅうでいかつい。話を聞いたら、

この世界は娯楽が少ないらしく、暇さえあれば筋トレしているらしい。


よく見ると目を患っている人も多い。

原因はよく判らないそうだ。

しかし、ここの住民達は根っから明るい。


下を向いて哀しそうに歩いている人の多い現代日本とは大違いだ。

少し、羨ましくて、しんみりしてしまうな。


ふと隣りの会話が聞こえた。

「あ“〜ウチのひかるとオタクのもえちゃんを結婚させよう!」

だいぶ酔っているな。

「おぉ”ー。ウチの子と同い年でお似合いダ◯×%*〜」

こっちもか。


酔った勢いで勝手に婚約させられた当事者の子供達はたまらないな。


ふと横を見ると奢ってくれた男がドレスを着た女性をジッと見ている。

胸元が開いたドレスで男は女性の胸を凝視していた。


男はジェスチャーで巨乳を作ってみせた。

おっぱい大好きか!!


俺はスレンダーな方が好みなんだがな。

そう言えばここの女性店員はスレンダーな方が多い。


この世界の女性達は身体を男にジロジロ見られても余り気にしていない様子だ。

欧米の女性は気にしない傾向にあるから、街や人柄も欧州に近いのかな。


一通り騒いで盛り上がって解散になった。

「ありがとう、楽しかったよ」

お礼を言ってお店を出た。


人懐っこい人達に自分が受け容れられたと思った。充実感があった。

家の柔らかいランプが並ぶ通りを家へ向かった。


来る時には気が付かなかったが、煉瓦造りの城壁が街中にあった。

おそらくこの街を囲うように城壁があるのだろう。


台形の門を潜り、ガラスの階段を登り、玄関のドアを開けて、家のベッドに倒れ込む。


(あ、杖を忘れてきたな。まぁいいか……)


俺は深い眠りについた。


〜1日目終了〜

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