第6話 我が家
―――俺の意気地なしィ!!!
「なんであそこで握手できなかったんだろ」
あれからサムとは無言のまま別れ、家に着いた。
俺は今2階の自室に戻って、頭を抱えて座り込んでいた。
サムに握手を求められて、あの場で返せなかった自分の勇気の無さを後悔していた。
「全くよ。あれは自然に触れるチャンスだったのに」
「もういいよ、お前は黙っててくれ……」
こんな風に平気で魔女と話すようになってしまった。
正直自分の順応力にも困ったものだ。
―――決心がつかなかったのだ。
目が覚めてから退院する1週間の入院生活の中で、必死に考えていた。
この力は、魔女の言う通り俺に都合の良い力だった。
長い間サムを好きでいて、その想いを叶えるにふさわしいチャンスを得た。
そして、この力をサムに使うと、あの時は確かに決心した。
しかし毎日献身的に見舞いにきてくれるサムを見ていると、段々とその決心は揺らいでいった。
サムは多分、俺への罪悪感からこうして見舞いにきてくれている。
そんなサムの贖罪の気持ちを利用して、俺に気持ちを抱かせるなんて、あまりに非道なことなんじゃないのかと。
「俺、サムに力を使うのはやめるよ」
「変なの。どうせやるなら好きな人にすればいいのに。あなたって真面目なのね。……まぁワタシはそれでも構わないのだけど。じゃひと先ずはあの虎さんにするってことね」
「……そういうことになるかな。俺ラルフのことも好きなんだ」
それからは両親と夕飯を食べ、自室のベッドにもぐりこんだ。
何度かお見舞いには来ていたが、久しぶりの自宅での再会に両親も喜んでくれていた。
―――ごめん、お父さん、お母さん。俺、1年後には死ぬんだ。
もちろん、そんなことを言えるわけはない。
サムとラルフには、俺の両親に呪いのことを口止めをしておいた。
サムは自責の念からか、俺の両親に謝罪を申し出たいと強く言っていたが……。
『どうせ魔女を倒せば元通りになる。そのためにサムも頑張ってくれるんだろ。それに本当の事を言ったら両親は俺をもうサムたちと旅には出してくれないだろ?』
そういったら、サムはそれ以上反抗できないようだった。
「……やっぱり、久々の自分のベッドは落ち着くな」
―――死ぬってどういうことなんだろう。
考えても仕方がない。
俺が今、やれることは一つだけ。
"真実の愛"を手に入れること。
それはつまり、魔女を満足させられればいいということなのだ。
俺がサムへの想いを叶えることと、イコールなわけではないはずだ。
これは俺が臆病だからなんかじゃない。事実なのだ。
正直、魔女の好みは未だによくわからない。
でも魔女に与えられたこの力を利用して俺が男と―――その、ラブな展開を生み出すんだ。
俺も男だ、正直言って欲がないわけじゃない。
―――ああ、ラルフに会いたいな。
そんなことを考えながら、俺はいつの間にか眠りについていた。
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