第2話 友の中の真実

俺はサムを待つ間、この村で暮らしてきた今までのことを考えていた。


サムは俺の家の隣に住む同い年の幼馴染である。

身長は180cmで、誰もが羨むイケメン。

いつも人懐っこい笑顔を浮かべている。

性格は裏表がなく、真面目で、誰隔てなく優しい。

そして今では村で1,2を争う剣の腕前だ。


北に行けば、おばあさんの荷物をもってやり、

東に行けば、迷子になった子供の面倒を見て、

西に行けば、捨てられた子犬の新しい飼い主を探し、

南に行けば、……いじめられる同級生を助けてくれた。


そう、まぁなんというか、誰もが認める好青年なのである。

『家が隣で小さい頃から、ずっと遊んできた、から幼馴染』。

それだけの繋がりだけで、それだけの理由だけで、サムの親友としてポジションを作ってきた。


……それに比べて、俺は身長も少し小さく、顔はいまいち、どちらかと言えば引っ込み思案。

だからいつも優しく、周りに人が絶えない、そんなサムにずっと憧れを抱いていた。

そして、その憧れはいつか『好き』という感情に代わっていた。


サムがこちらを向いて笑顔を浮かべている。

それだけで俺の心はどうしようもなく、高鳴ってしまうのだった。


それは、いつだっただろうか。

俺は『普通じゃない』、ということに気づいた。

気づきたくなかった。

その瞬間から、俺は一生サムと親友であり続けることを決めたのだ。

この想いは決して伝えてはいけないものなのだ。


それから俺はサムと対等でいるため、より一層修練に励んできた。

せめてサムに負けないよう、幼い頃から扱ってきた弓の訓練だけは手を抜かなかった。

そして、いつしか俺は村一番の弓の使い手になっていた。



そんな昔のことを少し考えていると、


『コンコンッ』


と、ノックの音がして、親友のサムが入ってきた。

そしてサムは俺のベッドの脇まで来た。


「おう、サム。来てくれてありがとう。さっきラルフの様子がおかしかったが、何か知ってるか?」


そういうと、サムは顔色を変えないまま、唇を噛み、苦い表情をしている。


「……サム?」

「エル、すまなかった!!」


そういうと、突然サムは床に伏せた。

俺は身体を動かせないため、サムが視界からほとんど消えているが、どうやら土下座のような恰好をしているようだった。


「いや、ちょっと待て! いきなりどうしたんだよ」


しかし、サムは一向に顔を上げず、しばらくの時が経った。

サムがようやく立ち上がり、俺の方を向いて真剣な顔をすると、こう言った。


「……魔女の呪いで、エルは1年後に、その、死ぬ……命を落とす運命になったそうだ」


―――言われている事の意味がわからなかった。

死ぬ?

俺が?


「ちょっと待て、どうして、そんな」

「エルが首に下げてる紫色のペンダント。それは魔女のものだ。魔女はエルの命を……あの時、全て奪い、その一部、一年分だけをそのペンダントに入れたらしい。そのペンダントを外せば、エルはたちまち命を落とす」


それから、少しずつサムの話を聞いて、頭を整理させていった。


俺はサムとラルフの3人で、魔女の調査に向かい、森の最深部で例のその魔女と巡り合った。

そこには村で消えていった男たちが何人もそばで眠っていた。

魔女はその若さを保つため、若い男たちから生気を奪い取っていたらしい。

俺らは魔女を倒すため、3人で戦った。

勇敢に拳で戦うラルフは魔女に一番接近するも、不得意とする魔法を相手に、初めに倒されてしまった。

残る俺とサムでなんとか魔女と戦うも、戦線はどう考えても相手がいくつも格上であった。


「そして、魔女は俺の生気も吸い取ろうと、呪いの魔法をぶつけてきた。魔法を受ける直前に、エルが、俺の前に飛び込んできた、いや飛び込んできて、くれて……しまった」


なんとも歯切れの悪い言い方でサムはそう言い終えると、再びの沈黙が訪れた。

俺は話に理解したものの、やはり自分が「死ぬ」という運命を未だ受け入れられずにいた。


「魔女はエルの命を奪って、満足したのか、どこかに消えていったよ。……俺が謝って済むことじゃないのはわかっている。感謝を言うのも間違っているかもしれない。でも、エル、ありがとう。


俺は何も言葉を発せられなかった。


「……エルも考えたいと思うから、俺は少し外に出るよ。」


そういって、サムは病室を出ていった。


―――サムは優しい。

いちいち、言動の一つ一つに他人を気遣ってくれる優しさがにじみ出ている。


記憶は相変わらずぼんやりとしていて、魔女と戦ったあの日の記憶もおぼろ気だ。

俺は左手で胸のペンダントを顔の前に持ってきた。


「……これが俺の命か」


どうしようもないというのなら、俺はサムを救えてよかったのかもしれない。

俺の命より、サムの命のほうが、きっと良いに違いない。

欠片に反射した光を眺めながら、自分の中の勇敢な心に、少しだけ誇らしい気がした。

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