第2話 友の中の真実
俺はサムを待つ間、この村で暮らしてきた今までのことを考えていた。
サムは俺の家の隣に住む同い年の幼馴染である。
身長は180cmで、誰もが羨むイケメン。
いつも人懐っこい笑顔を浮かべている。
性格は裏表がなく、真面目で、誰隔てなく優しい。
そして今では村で1,2を争う剣の腕前だ。
北に行けば、おばあさんの荷物をもってやり、
東に行けば、迷子になった子供の面倒を見て、
西に行けば、捨てられた子犬の新しい飼い主を探し、
南に行けば、……いじめられる同級生を助けてくれた。
そう、まぁなんというか、誰もが認める好青年なのである。
『家が隣で小さい頃から、ずっと遊んできた、から幼馴染』。
それだけの繋がりだけで、それだけの理由だけで、サムの親友としてポジションを作ってきた。
……それに比べて、俺は身長も少し小さく、顔はいまいち、どちらかと言えば引っ込み思案。
だからいつも優しく、周りに人が絶えない、そんなサムにずっと憧れを抱いていた。
そして、その憧れはいつか『好き』という感情に代わっていた。
サムがこちらを向いて笑顔を浮かべている。
それだけで俺の心はどうしようもなく、高鳴ってしまうのだった。
それは、いつだっただろうか。
俺は『普通じゃない』、ということに気づいた。
気づきたくなかった。
その瞬間から、俺は一生サムと親友であり続けることを決めたのだ。
この想いは決して伝えてはいけないものなのだ。
それから俺はサムと対等でいるため、より一層修練に励んできた。
せめてサムに負けないよう、幼い頃から扱ってきた弓の訓練だけは手を抜かなかった。
そして、いつしか俺は村一番の弓の使い手になっていた。
*
そんな昔のことを少し考えていると、
『コンコンッ』
と、ノックの音がして、親友のサムが入ってきた。
そしてサムは俺のベッドの脇まで来た。
「おう、サム。来てくれてありがとう。さっきラルフの様子がおかしかったが、何か知ってるか?」
そういうと、サムは顔色を変えないまま、唇を噛み、苦い表情をしている。
「……サム?」
「エル、すまなかった!!」
そういうと、突然サムは床に伏せた。
俺は身体を動かせないため、サムが視界からほとんど消えているが、どうやら土下座のような恰好をしているようだった。
「いや、ちょっと待て! いきなりどうしたんだよ」
しかし、サムは一向に顔を上げず、しばらくの時が経った。
サムがようやく立ち上がり、俺の方を向いて真剣な顔をすると、こう言った。
「……魔女の呪いで、エルは1年後に、その、死ぬ……命を落とす運命になったそうだ」
―――言われている事の意味がわからなかった。
死ぬ?
俺が?
「ちょっと待て、どうして、そんな」
「エルが首に下げてる紫色のペンダント。それは魔女のものだ。魔女はエルの命を……あの時、全て奪い、その一部、一年分だけをそのペンダントに入れたらしい。そのペンダントを外せば、エルはたちまち命を落とす」
それから、少しずつサムの話を聞いて、頭を整理させていった。
俺はサムとラルフの3人で、魔女の調査に向かい、森の最深部で例のその魔女と巡り合った。
そこには村で消えていった男たちが何人もそばで眠っていた。
魔女はその若さを保つため、若い男たちから生気を奪い取っていたらしい。
俺らは魔女を倒すため、3人で戦った。
勇敢に拳で戦うラルフは魔女に一番接近するも、不得意とする魔法を相手に、初めに倒されてしまった。
残る俺とサムでなんとか魔女と戦うも、戦線はどう考えても相手がいくつも格上であった。
「そして、魔女は俺の生気も吸い取ろうと、呪いの魔法をぶつけてきた。魔法を受ける直前に、エルが、俺の前に飛び込んできた、いや飛び込んできて、くれて……しまった」
なんとも歯切れの悪い言い方でサムはそう言い終えると、再びの沈黙が訪れた。
俺は話に理解したものの、やはり自分が「死ぬ」という運命を未だ受け入れられずにいた。
「魔女はエルの命を奪って、満足したのか、どこかに消えていったよ。……俺が謝って済むことじゃないのはわかっている。感謝を言うのも間違っているかもしれない。でも、エル、ありがとう。
俺は何も言葉を発せられなかった。
「……エルも考えたいと思うから、俺は少し外に出るよ。」
そういって、サムは病室を出ていった。
―――サムは優しい。
いちいち、言動の一つ一つに他人を気遣ってくれる優しさがにじみ出ている。
記憶は相変わらずぼんやりとしていて、魔女と戦ったあの日の記憶もおぼろ気だ。
俺は左手で胸のペンダントを顔の前に持ってきた。
「……これが俺の命か」
どうしようもないというのなら、俺はサムを救えてよかったのかもしれない。
俺の命より、サムの命のほうが、きっと良いに違いない。
欠片に反射した光を眺めながら、自分の中の勇敢な心に、少しだけ誇らしい気がした。
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