魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

第1章 魔女の呪いと変わる世界

第1話 始まり

まぶしい光で目が覚めると、真っ白な天井と壁が目に入った。


「イっ……」


なぜか身体の節々がとても痛い。

とてもベッドから身を起こせそうになかった。


なんとか首だけを動かして、あたりの様子をうかがう。

寝ているベッドや白を基調とした部屋から、ここはどうやら病院のようだ。

左側には大きな窓があり、レースのカーテン越しから明るい陽射しが差し込んでいる。

外からのチュンチュンと聞こえる鳥のさえずりと、清々しい澄んだ空気から、どうやら時間帯は朝のようだ。


「ここは……どこだ?」


まだもやのかかったような頭の中、必死にここにいる理由を探した。

しかし、思い出せそうにない。


―――今まで何をしていた?

―――どうしてこんなとこにいる?


考えていると、ふと胸のあたりに何かが乗っかっている違和感があった。

幸い左手は少し動かせたため、自身の胸を探ると、何かペンダントのようなものをつけているようだった。


手探りでペンダントを顔の前に取り出すと、そこには紫色の綺麗な欠片がついていた。

欠片をくるくる回すと、病室の蛍光灯の光に反射して、美しく光った。

このようなものの覚えがない。

果たしてこんな高そうなもの、俺が持っていただろうか…。


「……だめ、だ」


頭がぼうっとしてきて、身体の節々の痛みの中。

また俺は眠りについた。



どれくらい眠りについていたのだろう。

―――誰かの呼ぶ声、がする。


「……起きたか!?」


ゆっくりと目を開けると、そこには雄々しい虎の姿が目の前にあり、俺の顔をのぞき込んでいた。


「……ラルフ?」

「やっと目を覚ましやがったか! エル!」


ラルフは人間と白虎のハーフで一種の獣人である。

体毛は白に覆われて、身長は190cmほどもある。

その屈強な身体と愉快な性格から、他人からの人望も厚い奴だった……はずだ。


―――少しずつ、思い出してきた。


俺はたしかラルフと、それから……

あいつと…

3人で、旅をしていた?


「なぁ、ラルフ。俺はどうしてここにいるんだ?なんだか頭がぼうっとしていて、思い出せないんだ」

「そうか……。オメェはあの時、衝撃で頭を打って……それから一週間寝ていたからな。無理もないだろうな」


そういって俺はラルフから、ここまでの事の顛末を聞いた。


俺らの住むこのダンテ村では夜な夜な男たちが消えていくという奇怪な事件が起こっていた。

男たちはひとりでに村のそばの森に入っていき、そのまま何人も帰ってこなかったという。

そのずっと奥深くには魔女の住む森があるとされ、立ち入りが禁止されており、魔女の仕業ではないかと村人たちの間で囁かれるようになった。

この奇怪な事件を解決するべく、俺エルネストと、村一番の屈強な男として選ばれたラルフの2人に村から調査依頼がかかった。

そんな中、親父がその事件で居なくなったという、俺の親友でもあるサムも志願し、3人で調査に出かけた、というわけだ。


「……それで、俺らはその調査に失敗した、というわけか?」


そう言うと、ラルフは少し困った顔で耳を垂らした。

大の屈強な男がそれをやると、大型犬どころではない。

だって彼は虎なのだ。

でもそんな仕草も少し可愛く思えてしまう所が、俺の良くないところだと思う。


「……その、まぁそういうことだ! まぁオメェも俺も、力が足りなかったってことだ! ガハッハッハ」


ラルフは男らしく豪快な笑い声を上げ始めた。

俺はこいつのこういう所が好きだった。

いつでも頼りがいがあり、豪快で、小さいことはどうでもよいと思えてしまう、そんなところが。


「ハッハ……」


ひとしきりラルフは笑うと、それでもどこかバツが悪いのか、窓の方を向きながら自身の頬を指で掻きはじめた。


「……お前を助けられなくて、すまない」


こんなにも、しおらしいラルフの態度は正直初めてだったかもしれない。

俺はしばらく呆けてしまった。


「いや、そんなことない! 確かに……どうやら今、俺の身体はボロボロみたいだけど、また治ったら調査に挑めばいいじゃないか」


俺がそう言い返すと、それでもラルフは煮え切らない態度で、窓の方向を向いたまま、顔を合わせようとしない。

しばらくの沈黙が流れ、お互いに少し気まずい空気が流れだした。


「……なあ、水を少し飲みたいんだけど。少し手を貸してくれないか?」


沈黙を遮ろうと、俺が声をかけると、ラルフは無言のまま頷いた。

そして俺の右手を持ち、もう片方の手で俺の肩に手をまわした。

そして少し上体が起きたその時、


ドンッ!


「……ウッ!?」


急にラルフが手を引っ込めた。

そして俺の少しだけ浮き上がった身体はまたベッドに叩きつけられた。


「おい、ラルフ! 何すんッ……!」


そういって、なんとか首をラルフの方に向けると、ラルフは今までに見たことのない顔をしていた。

そのまま俺の方をじっと見つめて惚けたような顔をしている。


そしてハッと我に返ったようにラルフが視線を上にあげ、パクパクと口を動かし始めた。


「あ、すすすすまない。なんだか急にオメェに触ったのがいけない気がして……! あ、俺あの野郎のこと呼んでこなくちゃな。じゃ! また会おうぜ!」


そういってラルフは俺に有無を言わさないまま、急いで病室から出ていった。

なんなんだろうか、あいつの態度は。

でも、ちょっと今のラルフ、なんだか可愛かったな。

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