第174話 ふたりの想い(4)

斯波はそんな夏希の言葉に苦笑いをして


「おまえと高宮じゃあ・・初めっからありえない組み合わせだしなあ。」


と言った。


「ま、それを言われたら元も子もないんですけど~。 ま、だいたいあたしがバカなこと言って、隆ちゃんが笑っちゃって・・終わりますけど。」


夏希は口を尖らせた。


「いいんじゃないの? それで。 平和じゃん、」


斯波はため息をつきながらまた仕事をし始めた。



「でも。 斯波さんと栗栖さんには幸せになって欲しいのに、」


夏希はちょっと真面目になってそう言った。



「・・今だって。 別に不幸だなんて思ってないし。」


「そうじゃなくて。 栗栖さんは・・きっと斯波さんと家族になりたいって思ってるんじゃないかなあって、」



ちょっと


ドキンとした。



『家族』



それは


ただ


好きだから一緒に棲んでいる二人には当てはまらない言葉だった。



血のつながりはなくても


全てを許しあって


わかりあって


生活ができる


不思議な関係。



結局それが


結婚で。




斯波はしばし固まった後、




「・・おまえが嫁に行くまでは。 しないよ。」



ふっと笑って原稿に目をやった。



「はあ?」


夏希はのらりくらりと質問をかわす斯波に思いっきり不思議顔をした。


「・・アホ、」



その顔がおかしくて


斯波はまた堪えるように笑ってしまった。





ホントは


何度も悩んだ。


つきあい始めて4年が過ぎて。


自分はいいけれど


彼女は


結婚を望んでいるんじゃないかと


思っているんじゃないかって。


男と違って女は


年齢が勝負でもある。



萌香は


今年30になる。


女にとっては


最大の『節目』だ。



彼女は


『結婚』なんて言葉を一度も口にしたことがない。


それが


楽な気もしていたが。


何も言われないと


それはそれで気にならなくもない。




わかっていても


やっぱり


怖いのかもしれない。




結婚したら


別れることへの第一歩みたいな気がして。



一緒に


幸せになりたい気持ちはあるけど。



だけど


彼女を失うのが怖いって思えば思うほど



それに


踏み切れない自分がいる。






そんな時。


「え? 大阪支社、ですか。」


萌香は志藤の前に行った。


「ウン。 ま、おれ一人でもどーってことないし。 無理に来なくてもいいよ。」


志藤は萌香のことを気遣ってそう言って笑った。



大阪支社から彼女がやって来て4年が経つが


そのいきさつから考えて


仕事とはいえ


そこに行かせるのは


気の毒な気がしていた。



萌香は少し考えたあと、



「私も・・行きます。」



笑顔でそう言った。

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